第七話:鳴り砂の海
(……一歩踏み出すたびに、世界が足元から崩れていく。
どこまで歩いても硬い面に突き当たらない、
この心細い浮遊感はなんだろう)
足の裏を掠めていくのは、
極限まで細かく砕かれた、乾燥した粒の集合体だ。
それが無数に重なり合い、
僕の体重を分散させながら、
さらさら、と高い摩擦音を立てて絶え間なく流れていく。
――砂の流動音:
無数の粒が互いに擦れ合い、まるで巨大な布を引き裂き続けているような、滑らかで乾いたさざ波の連続。
――広大な空間の反響音:
遮るもののない平原を、風がヴォォォォ、と巨大な筒の底を吹くような音を立てて通り抜ける、遮蔽物のない音響。
――彼女の沈下音:
重い装備が足元の層に深く沈み込み、踏みしめるたびにザフッ、ザフッ、と重厚な抵抗を伴う、くぐもった打音。
(森の冷たい機械音とは違う。
ここにあるのは、ただ物質が形を変え続けるだけの、
終わりも始まりもない「流れ」の音だけだ)
彼女が僕の腕を掴み、
足を取られないよう、
一定のテンポで僕を導いてくれる。
――鳴り砂の共鳴:
彼女が身を揺らすたびに、足元の層が楽器のようにクゥ、クゥ、と、生き物の鳴き声に似た不思議な響きを返す現象。
(この地面、僕たちの重さに反応して歌っている。
踏む場所によって、音の密度が微妙に変わっていくのがわかる……)
不意に、風の音が止んだ。
静寂が訪れるはずのその瞬間、
足元の奥深くから、
先ほどまでの乾いた音とは明らかに違う、「湿り気」を帯びた音が聞こえてきた。
――深部の鼓動:
幾重にも重なった層の下、深い場所から響いてくる、粘り気のある何かがピチャ、ピチャ、と跳ねるような水音。
――砂を泳ぐ歌い手:
流れる音に混じって、誰かが低い声でハミングしているような、音程の定まらない不気味な旋律。
(……砂の中に、何かがいる。
しかも、それは一つじゃない。
僕たちの周囲を回り込むように、少しずつ距離を詰めてきているんだ)
足元の表面が不自然に盛り上がり、
ザザッ、ザザザッ、と、
何かが高速で這い回る摩擦音が、
僕のすぐ背後で止まった。
(……息が、止まる。音の動きからして、もう目の前だ)




