第六話:終焉の秒刻
(心臓の鼓動が耳元で暴れている。
自分の脈動なのか、周囲を埋め尽くす自壊の音なのか、
もうその境界すら分からなくなっている)
足元の震動は、もはや揺れではなく、
巨大な機械の臓腑に直接触れているような、
ズズズ、ズズズ、という激しい摩擦の連続だ。
森の心臓部へ近づくにつれ、
数万の秒読みは一つの巨大な「終焉の和音」へと変わっていく。
――臨界に達した駆動音:
一秒を削り出すたびに立ち上がる、地を這うような「ゴォォォォン」という重低音の反復。
――金属の悲鳴:
摩擦熱で焼き切れる寸前の駆動部が放つ、「キィィィィィン」という脳の芯を突き刺すような高周波。
――構造体の崩壊音:
耐えきれなくなった「刻む柱」たちが、あちこちで「バキ、バキ、ガシャァン!」と音を立てて砕ける破壊の連鎖。
(……この音の渦に飲み込まれたら、僕の意識もバラバラに砕かれてしまう!)
彼女が僕の腰を抱き上げ、
音の濁流の中を、弾丸のような速さで駆け抜ける。
――彼女の突進音:
装甲が空気を切り裂く「シュパッ」という鋭い風切り音と、着地のたびに地面を爆ぜさせる「ドォォン」という力強い打音。
(出口はどこだ。
どこかに、この規則正しいリズムが「途切れている場所」があるはずだ……!)
僕は必死に耳を澄ませ、
狂った時計たちの合唱の中に、
わずかな「空白」を探し出す。
(……あそこだ!
規則性のない、ただの風の音が聞こえる!)
僕は彼女の肩を強く叩き、音の途切れた方向へ体をもたせかけた。
彼女の装備が一段と高く鳴り響き、
パキィィィン、という、
最後の硬質な壁を力任せに突き破る音が響いた。
――静寂の爆発:
耳を劈くような轟音の直後、すべての機械音が背後に遠ざかり、代わりに「サァァ……」という広大な空間の反響が耳を包み込む瞬間。
(……逃げ切ったのか?)
足元の感触は、いつの間にか硬い面から、
サラサラと指の間をすり抜けるような、
乾いた粒の集合体へと変わっていた。
――新しい世界の鼓動:
遠くから響く、巨大な生き物が重く吐息を漏らすような、「ザザァー……、ザザァー……」という深い反復音。
(この音……。
森の冷たい刻み音とは違う。
もっと大きくて、どこまでも深い場所から響いてくるみたいだ)
背後で聞こえていた秒刻の音は、
今はもう、反響すら届かないほど遠くへと消えた。
けれど、正面から聞こえてくるその「新しい音」の中には、
これまでのどんな怪物よりも巨大な、
何かが蠢くような「湿った震動」が混じっていた。




