第五話:不協和音の解凍
(……鼓動が速くなる。
耳元で鳴り続けるチチチチチという音は、
もはや一つに繋がって、鋭い震動となって僕の鼓膜を刺してくる)
この音の檻に閉じ込められたら、
僕も彼女のように、
あらゆる反響を失った永遠の静止に飲み込まれてしまう。
空気そのものが、
冷たく重い物質に変わって僕の皮膚を締め付けてくる感覚だ。
――加速する秒刻音:
一秒をさらに細かく刻み、大気の震動を無理やり引き止める、金属的な高周波の連続。
――音を遮断する壁:
周囲の反響が一切届かなくなり、僕の呼吸音さえもが、分厚い遮蔽の向こうへ押しやられる不気味な閉塞感。
――石の抵抗振動:
掌の中のあの石が、何かに抗うようにギリギリ……と、低い軋み音を立てて熱を帯びる震え。
(……黙って見ていられるか。
僕たちの音を、この冷たいリズムに食わせてたまるものか!)
僕は固まった大気の重圧を押し返すように、
喉の奥に溜まった震えを、
一気に唇の隙間から解き放った。
それは、綺麗なメロディじゃない。
この場所の規則正しすぎるリズムを、
力任せに叩き潰すための、泥臭い不協和音だ。
ヒュィィィィィッ……!!
――共鳴による破断:
僕の口笛と石の震動がぶつかり合い、固まっていた大気がパキパキッ、と硬い面が剥がれ落ちる音を立てて崩壊する響き。
――解凍の咆哮:
止まっていた彼女の時間が、一気にゴォォォ! という凄まじい大気の流入音と共に動き出す瞬間。
――森の動揺音:
完璧だったリズムが僕の音に乱され、周囲の構造体からカチャッ、ガガッ、と歯車が狂ったような異音が連鎖していく。
(……よし、音が帰ってきた!)
彼女の装備がガシャリ! と力強く鳴り、
僕の肩を掴んで、一気に後方へと引き寄せた。
その直後、僕たちがいた正面を、
鼓膜の反応を置き去りにするような速さで何かが通り過ぎた。
――追撃の断裂音:
何かが猛烈な速さで空気を切り裂き、シュバッ、という鋭い響きの後に、床の面が粉々に砕け散るズガァァン! という轟音。
(……戦いは終わっていない。
それどころか、この森そのものが、
もっと巨大で不規則な「音の濁流」を吐き出し始めている!)
足元の地面から、
まるで数千の精密機械が一斉に自壊を始めたような、
おぞましいガチガチガチガチ! という激しい駆動音が迫ってくる。




