第四話:秒刻の森
(……足元の響きが変わった。
さっきまでの柔らかい土が音を吸い込む感覚は消え、
今は踏みしめるたびに、硬い何かが爆ぜるような高い反響が返ってくる)
周囲を包んでいた風のざわめきが、
いつの間にか、一つの冷徹な合奏に塗り替えられている。
それは生き物の息遣いを一切感じさせない、
無機質で、けれど圧倒的な密度を持った音の壁だ。
――秒を刻む律動:
チッ、チッ、という、硬質な何かが噛み合い、跳ね返る、寸分狂わぬ規則正しい音の連鎖。
――構造体同士の摩擦音:
何かが「カチリ」と回転するような、乾いた連続音が頭上から降り注ぐ響き。
――足元の破砕反響:
一歩踏み出すたびに「パキッ」と、薄く硬い面が砕け散る、鋭く乾いた音。
(……ここには、僕の知っている自然の音がない。
聞こえてくるのは、ただ存在を削り取っていくような、
冷たくて非情な刻み音だけだ)
隣を歩く彼女の装備が奏でていた澄んだ和音が、
この場所の規則的なリズムとぶ続かり合い、
不気味な不協和音を生み出し始めた。
――装備の軋み音:
彼女が動くたびに、「ギギィ……」と、何かに動きを強制的に止められようとしているような、重く不自然な摩擦。
(……おかしい。彼女の足音が、一歩ごとに遅くなっている?)
彼女が放つ金属音の間隔が、
周囲の刻み音に飲み込まれるように広がり、
最後には「カチッ」という音と共に、完全に消失した。
――凍りついた静寂:
彼女の呼吸音さえもが、まるで周囲の密度に固められたかのように、不自然なほどぴたりと静まり返る沈黙。
(……えっ? 彼女、動いていないのか?
僕の耳が、すぐ隣にいるはずの彼女の音を、何も拾えない……)
僕が彼女のいた場所へ手を伸ばそうとしたその時、
僕の耳のすぐ真横から、
「チチチチチ……!」という、
何かが激しく燃焼する直前のような高速の秒読みが始まった。




