第二話:重なり合う残響
(……すぐ正面に、巨大な質量が立っている。
ただそこにいるだけなのに、空気がびりびりと震えて、
僕の鼓膜を細い針で叩くような高音が響く)
正面の気配がわずかに揺れるたびに、
単なる足音ではない、不思議な「和音」が聞こえてきた。
それは、硬いものがぶつかり合う音の裏で、
細い弦を指先で弾いたような、キィィンという高い震動が長く尾を引く響きだ。
――装甲の呼吸音:
重なり合う硬質な板が、わずかな動きに反応して「キィィ……」と、細く澄んだ余韻を奏で続ける響き。
――籠もった空気の排出音:
分厚い遮蔽物の奥から漏れ出す、「フシュー、コー」という、洞窟の奥で風が唸るような深く重い呼吸。
――足元から伝わる重圧:
相手が重心を変えるたびに、地面の底を伝って「ドォォン」と突き上げる、逃げ場のない振動。
(怖い。でも、この音には不思議な透明感がある。
刺すような悪意の音じゃなくて、
もっと、研ぎ澄まされた沈黙の音だ)
僕は震える指先を、音の源へと、
恐る恐る、空気を探るように差し出した。
すると、相手の動きがピタリと止まった。
――接触の共鳴:
指先が冷たくて硬い面に触れた瞬間、「チリィィ……」という、氷の粒を爪で弾いたような極小の音が、その場所から波紋のように広がった。
(……えっ? この硬い感触、僕が触れると音を出すのか?)
――鼓動の同期:
触れた場所から指の腹を伝ってくる、「トクン、トクン」という、力強い一定の拍動。
それと同時に、金属が放つ音色が、僕の緊張に合わせて少しずつ低く、穏やかに変わっていく。
(まるで、僕の心の波形を、音が代わりに喋っているみたいだ)
正面の存在が、僕の手をそっと握り返した。
硬い外装に包まれた指先は、
驚くほど正確に、そして優しく、僕の掌を包み込む。
――和解の旋律:
喉の奥から漏れた、言葉ではない、けれど確かな意志を持った、「フゥゥゥ……」という、穏やかで長い吐息。
(……僕のことを、受け入れてくれたのかな?)
そう安堵した瞬間。
反響の届かない遥か遠くから、
この平穏をすべて粉砕する「重低音の壁」が押し寄せてきた。
――世界の拒絶音:
大気が物理的な重さを持って叩きつけてくるような、「ゴォォォォン!!」という、逃げ場のない圧倒的な破壊の震動。
(……なんだ、今の音。空気が、震えてる!?)




