第十七話:芳醇なる和音果
(……風の渦がゆっくりと熱を失い、
僕たちを柔らかいクッションのような場所へと降ろしてくれた。
さっきまでの激しい風切り音は消え、
今は、とろりとした甘い反響が周囲に満ちている)
着地した場所からは、
これまでの乾いた草の音とは違う、
「ぷるん」とした、弾力のある不思議な音が響いている。
そして何より、風に乗って運ばれてくるのは、
音そのものが「熟している」ような、
濃密で重厚な、震えるような響きだ。
――蜜を湛えた鳴り果実:
風が抜けるたびに、内部の液体が「タプン、タプン」と、
重く、けれど透明感のある音を立てて揺れる響き。
――完熟の弾裂音:
指先で軽く触れただけで、皮が「パチンッ!」と小気味よく弾け、
中から溢れ出す滴が「トトト……」と、
調べを奏でるように地面を叩く音。
――彼女の感嘆の吐息:
装備を鳴らして果実を口にした彼女が、
「……っ」と短く喉を鳴らし、
「サク、ジュワァァ……」という、
聴いているだけで頬が落ちそうな、瑞々しい咀嚼音。
(……なんて美味しそうな音なんだろう。
僕も、彼女が差し出してくれた一房を口に運んでみる)
前歯を立てた瞬間、
「シャリリッ」という、薄い氷の膜を砕くような音のあと、
暴力的なまでの「甘い振動」が脳の芯まで突き抜けた。
――味覚の共鳴:
舌の上で、無数の小さな粒が「ピチ、ピチッ」と弾け、
その一つ一つが異なる音階で喉の奥へと滑り落ちていく感覚。
(……すごい。音が、味になって全身に染み込んでいくみたいだ)
お腹が温かい音で満たされたあと、
僕たちは、その近くにある「特別な場所」へと体を預けた。
――雲綿草の寝床:
腰を下ろすと「フワァ……」と、
空気をたっぷり含んだ繊維が、音を一切立てずに沈み込み、
僕の体温を優しく「ムギュゥ……」と包み込む、無音の包容。
(……ああ、これはダメだ。
一度横になったら、もう二度と立ち上がれなくなるくらい、
この草のクッションは「静かすぎる」)
彼女の装備が「カチャリ」と、
これまでで一番小さく、穏やかな音を立てて隣に横たわる。
聞こえるのは、彼女のゆったりとした呼吸音と、
遠くで風に揺れる草たちの「スヤスヤ」という微かな寝息だけ。
(……ずっと、こうしていたいな。
こんなに優しくて、満ち足りた音の中にいられるなんて)
意識が深い静寂へと溶け込んでいく。
けれど、完全に眠りに落ちる直前。
足元の草の根のずっと奥、
地の底から、この世のものとは思えないほど、
「美しく、澄み切った鐘の音」が一回だけ、遠く響いた。










