第十一話:無響の深淵
(……落ちていく轟音が、いつの間にか消えている。
全身を叩いていた衝撃の代わりに、
今はただ、あまりに深い「何もない静止」が僕を包んでいる)
どれだけの時間、意識を失っていたんだろう。
彼女の手を握る感触だけが、
僕がまだこの世界に繋ぎ止められている唯一の証拠だ。
ここは、地上のあの鋭い反響に満ちた場所とは違う。
出した音がどこまでも吸い込まれ、
二度と戻ってこない、果てしない奥行きを感じる空間だ。
――底なしの吸音:
自分の吐息さえもが数センチ先で消滅し、反響が一切返ってこない、巨大な虚無を思わせる無響の壁。
――地層の微細な唸り:
硬い地殻のさらに奥底で、何かが一定の周波数で鳴り続けている、微かな「ジィィ……」という低い通電音。
――停滞した大気の摩擦音:
動かない重い空気が、鋭い角を撫でるように流れる、極薄の金属が擦れ合うような「シュゥゥ」という音。
(……助かったんだ。
でも、ここはどこだろう。
地上のあの高い風の音も、もう聞こえない)
僕は立ち上がろうとして、足元の感触を確かめる。
そこは破片が降り積もった場所ではなく、
極めて滑らかで、熱を一切感じさせない冷たい「面」だった。
そっと指先でその面を叩くと、
これまでのどんな場所よりも澄んだ、
けれどあまりに孤独な一音が、足元から深く響いた。
コォォォォォン……。
(……なんて深い音だ。
この場所そのものが、一つの巨大な「楽器」の内部みたいだ)
彼女がゆっくりと身を起こす、装備の「ガシャリ」という音が、
この静寂の中では、まるで世界を切り裂くような音量で響き渡る。
彼女の呼吸も、まだ乱れている。
けれど、その乱れた呼吸の合間に、
僕は「聞いてはいけない音」を拾ってしまった。
――粘着質な接近音:
はるか高い場所から、粘り気のある何かが「ベチャリ、ベチャリ」と、重い音を立ててこちらの「面」へと降りてくる。
(……まだ、追ってきている。
あの湿った不協和音は、この静寂の中でも、
僕たちの鼓動を正確に聞き分けているんだ)




