第十話:凍てついた調律師
(……足の裏から伝わる反響が、あまりに鋭い。
一歩進むたびに、硬い板を強く叩いたような、
キィィン、という高い震動が全身を駆け抜けていく)
これまで歩いてきた場所とは、音の「返り」が全く違う。
空気は薄く張り詰め、
わずかな衣擦れの音さえも、
何倍にも増幅されて遠くまで響き渡っていく。
――硬質な接地音:
踏みしめるたびに、硬い面を爪で弾いたような「パキィン」という鋭い反響が、地を伝ってどこまでも伸びていく響き。
――構造体の隙間を抜ける風切音:
無数の細い管を吹き抜けるような、高く震える「ヒュォォォ」という多重和音。
――足元から広がる断裂の予兆:
体重がかかるたびに、何かが無理やり引き裂かれるような「ピキピキ……」という、極小の震えが周囲に広がっていく音。
(怖い。僕が音を出すたびに、
この場所そのものが、震えながら形を変えようとしているみたいだ)
彼女が僕の腕を掴む力に、いつになく緊張が混じっている。
彼女の装備が立てる「カシャリ」という小さな音さえ、
この場所では、静寂を切り裂く爆音のように響き渡る。
(……静かに。音を立てないように歩かなきゃ)
そう思った瞬間、僕の耳は、
背後の遠くから聞こえてくる「別の音」を捉えた。
それは、不規則で、粘り気のある、
この硬質な世界には似つかわしくない不協和音だ。
――不気味な追従音:
硬い面を何かが「ベチャリ、ベチャリ」と、湿った重い音を立てて這いずり、こちらへ向かってくる音響。
(……何か、来てる。
それも、僕たちが奏でてしまう高い音に引き寄せられているんだ)
焦った僕の足が、いつもより強く地面を叩いてしまった。
バキィィィィィィン!!
――連鎖する崩壊鳴動:
僕の足元から巨大な衝撃が伝わり、周囲の構造体が「ガラガラ、パリン!」と、激しい音を立てて一斉に崩れ落ちる轟音。
(……まずい! 音が、止まらない!)
一度始まった崩壊の連鎖は止まることなく、
僕たちの周囲の地面を、
猛烈な勢いで「音の破片」へと変えながら飲み込み始めた。
――断層の崩落音:
支えを失った層が、底の見えない深淵へと「ズガガガガッ!」と崩れ落ち、吹き上がってくる冷たい風が「ヒョォォォ!」と叫び声を上げる響き。
(彼女の手を、離しちゃいけない。
でも、足元の音が、どんどん遠ざかっていく……!)




