第一話:音の消えた目覚め
(……おかしい。何も聞こえない)
冷蔵庫の低い唸りも、
遠くの道路を走るタイヤの摩擦音も、
慣れ親しんだ現代の雑音が、
すべて嘘のように消え去っている。
代わりに鼓膜を揺らすのは、
今まで聞いたこともない、
密度の高い「ざわめき」の塊だ。
――命を宿した茎の擦過音:
数え切れないほどの細い葉が、風に躍らされて互いの肌を削り合い、サワサワと細波のように鳴り続けている。
――大気を震わせる唸り:
遮るもののない空間を風が駆け抜け、僕の耳を通り過ぎるたびに、ヴォォ、と重厚な和音を残していく。
――未知なる生物のさえずり:
天高くから降り注ぐ、硬質な粒を硬い床にぶちまけたような、鋭くも透き通った三拍子の響き。
(ここは、どこなんだ。
家じゃない。アスファルトの反響もない。
ただ、圧倒的な広がりを感じる音だけがある)
僕は指先を伸ばし、
湿り気を帯びた土と、
強靭な弾力を持つ茎の手触りを確かめる。
都会の乾いた沈黙とは違う。
ここは、あらゆる音が生きている。
不安を紛らわせるように、
僕は唇をすぼめて、得意の口笛を短く吹いた。
ピィィ……。
放った音はどこまでも遮るものなく遠ざかり、
この世界のざわめきの中に溶けていった。
(……届いたのかな、どこかに)
そう思った瞬間。
ガシャリ、という、
重い金属同士が激しくぶつかり合う音が、
すぐ背後で鳴り響いた。
(……誰か、いるのか?)
――接近する強烈な打音:
硬い装甲が擦れ合い、ギチ、ギチ、と重々しい音を立てて、僕のすぐ側まで歩み寄ってくる。
(逃げるべきか。それとも……)




