11.溶けていく
帰りの車の中はいつになく静かだった。
「ただいま」
返事はない、湊はまだ帰っていないようだ。
母は私を先に車から下ろし車を停めに行った。
沈黙がうるさい
荒波のような不安に、心がどこかに持っていかれそうになる。
「なんでよ」
思わず胸を掴んだ
ガチャ
玄関のドアが開く音に、私はパッと手を離した。
「ただいまー」
「おかえりー」
いつも通りの会話
これから"嫌な話"があるなんて感じさせないほど普通だった。
母は荷物をおに、病院からもらったであろう資料や薬を持って私の隣に座った
「今、話していい?」
「うん。」
思わず手に力が入った
「まず、凪に約束してほしいことがあるの。」
「うん。」
「無理をしないで」
「‥‥‥わかった」
母はほっとした表情で私の頭を撫でた
「治療のことなんだけどね。今は薬と検査で経過を見ることになったの。だから定期的に通院しなきゃいけない」
「‥‥‥‥昔と一緒だね」
その瞬間、母の目からポロッと涙が溢れた
「ごめ、凪より前に泣かないって決めてたのに、」
初めて見る母の涙に、つい私の涙腺も緩んだ
「‥‥やだなぁ」
母は私を抱きしめた
「丈夫な体に産んであげられなくてごめんね‥」
「‥‥」
私は否定も肯定もすることができなかった
「ご飯作るね」
母は涙を拭って台所に立った
「凪は先にお風呂入っておいで」
「うん」
私は椅子から降りてお風呂場に向かった
※
お風呂に浸かると頭がクリアになった
なよなよしてないで前に進まないと、
いつ悪化するかなんて誰にもわかんないんだから
「‥‥‥あのノートにまた書こうかなぁ」
あのノートとは、凪が小学3年生だった時に書いたもので表紙には大きく"やりたいことノート"と書いてある。
「私、なにがしたいのかなぁ」
ぶくぶくとお風呂に潜った
「……できるかな、私。」
自分に問いかけた小さな声は、お湯の中に溶けて消えていった。




