10.沈黙
「凪さん久しぶりですね。」
「‥‥先生」
私は小さい頃体が弱かった。
病気がちで、貧弱な体だった。
その理由は
"心臓"
小学3年生のころ大きな手術をした。手術は成功した
ーーーーーなのに
「検査で少し心臓に負担がかかっていることがわかりました。」
"やっぱり"正直そう思った
「はは、やっぱりかぁ」
母の顔が見れない、私より辛そうな顔するから
湊になんて言おう、湊は心配性だから泣くんだろうな
先生は心エコーを画面に映して言った
「これが凪さんの心臓の動きです。
ここ、見えますか? 心臓の左側の部屋が少しだけ、頑張って動いているように見えるんです」
「先生。私のせいですか?私のせいでーーー」
「違うよ」
先生はすぐに否定した。
少しだけ眉を下げて、優しい声で言う。
「これは成長によるもので、凪さんのせいじゃない。
これから治療していこうね」
"治療していこうね"この言葉に安堵した
治療できるんだ。
凪は 案外たいしたことないのかも。 なんて希望が見えた気がした。
後ろに座る母の顔は強張たままだった
「凪さん。治療のこともあるから、ちょっとお母さんと話させてもらっていいかな?」
一瞬だけ、胸がつまった。
“……どうして私じゃダメなの?”
そんな小さな不安だけを残して、私は椅子を立った。
※
ドアが閉まり
診察室には、母親と先生だけが残った。
先生はカルテをめくりながら深く息を吐いた
「お母さん。正直にお話ししますね」
空気がピリついた
モニターに映った心エコー。
先生は画面を指でなぞりながら淡々と説明した
「ここです。左心室の壁の動きが、通常よりかなり弱くなってきています。
以前の手術で治ったはずの部分が、また負荷に耐えきれなくなっている状態です。」
「‥状態、かなり悪いんですか?」
母の声はかすかに震えていた
「今は“危険”とは言いません。ただ――ー」
「このまま進行すれば、凪さんの心臓は長く持ちません。」
空気が凍りいた
心臓が持たない。つまり凪はーーーー
まるで誰かに心臓を掴まれているかのように胸が苦しい
「今すぐ入院、という段階ではありません。
ただ、治療を始めなければ確実に悪化します。
薬だけで抑えきれない場合は……再び手術を検討します。」
「……手術、ですか。」
「はい。手術による体への負担やリスクは確実に以前よりも大きくなります。ですから、簡単に手術に踏み込めむことはできません。」
先生は慎重に言葉を選びながら続けた
「ですので当面は、薬での治療と定期的な検査をしていただき経過を見させてください。」
「焦る段階ではありません。だからと言って……油断できる状態でもありません。これからはストレスや過度な運動は避けるように。」
母は黙って頷きながら、
手のひらがじんわり汗ばんでいくのを感じていた。
「‥あの、先生。‥‥本人にはどこまで伝えるべきでしょうか」
「治療が必要なこと、無理をしてはいけないこと。これだけは本人に理解してもらう必要があります。」
「ですので、心臓がつかれやすくなっていること。治療、通院が必要なこと。薬が欠かせないこと。これだけで十分です」
先生は母の目を見て言った。
「ただ‥‥‥"長く持たない可能性がある"という部分はまだ、本人には言わなくていいと僕は思います。」
「‥‥凪さんはまだ16歳です。事実を受け止めるには幼すぎます。」
母は「‥はい」と小さく返事をした。
声が震えていることに自分で気づくほどに
「ですが、お母さんにだけは知っていてほしいんです。急な症状、息切れ、胸の痛み、失神。そういった兆候が出たら、すぐに病院に連れてきてください。そして、ご存知だとは思いますが、治療には周りの人からのサポートが欠かせません。お母さんだけでなく、周りの人もサポートしてくれるような環境作りをよろしくお願いします」
「私たちも凪さんが普通の生活が守れるよう全力でサポートします。‥‥ですが、その普通が壊れる可能性があることも」
「覚悟しておいてください」
診察室が静まり返った
母は震える声で搾り出すように言った
「‥‥わかりました。凪のことどうかよろしくお願いします」
母は深々と頭を下げた
母は手で目を抑えた
「どうして、凪ばっかり‥‥‥。」
静かな診察室に時計の針の音だけがやけに響いて聞こえた。
※
ガラと音を立てながらドアが空き、母が診察室から出てきた
「終わった?」
「うん、終わったよ。‥‥ねぇ、凪。お家に帰ったらちゃんと話をしようか」
「うん、わかった」
母の目は少しだけ赤くて
何か良くないことを言われたのかも。と胃がキリキリと痛んだ。
あぁ、今日も日向くんと会えなかった。
今日こそ、連絡しないとな




