1.価値
ある夕方、
波の音に混じって日向の弾くギターの音だけが港に響いた。
誰もいない、僕の周りには誰もいない
でも、ここにくれば控えめな波の音が渇いた心を潤してくれる気がして、そうして気がついた頃には防波堤の上で胡座を描いてギターを弾くことが日課になっていた
いつも通りギターを弾いていたある日
ねぇ、と呼ばれる声がして目線を向けるそこには色白な女の子が立っていた
「今の曲、なんて曲?」
しばらく沈黙が続いたあとハッとして声を出した
「、、、青」
「あお、すてきな曲名だね」
すると ふわっ と風が吹き前髪が飛ばされて思いがけずに僕と彼女は目が合った
恥ずかしくて、僕はすぐに視線を逸らしてしまった
すると、彼女は僕に聞いた
「また、聞きにきてもいいかな?」
そう首を傾げる彼女に、僕は控えめに頷きを返した
少しの沈黙、その沈黙を解すように彼女は言った
「またね」
彼女はくすくすと笑い、軽快なステップを踏みながら遠ざかっていき、やがて見えなくなった
「ぼくも、かえるか」
ギターを仕舞おうとするとギターケースの中に何か硬いものが入っている
不思議に思いそれを取り出してみると一枚の100円玉だった
もしかして、彼女が入れてくれたのだろうか
いや違うそんなはずない、すぐに我に帰ってその硬貨をポケットにしまった。
この日の帰り道はいつもよりもギターがずいぶん軽く感じたことを覚えいる




