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妖精さんはスパルタ気味。

 私の前世は日本人で、八馬崎やまざき法子のりこをいう名だ。

 前世の死因は多分交通事故だと思う。

 最後の記憶は車にはねられたものだ。

 神様なんて見なかったけど、どうやら転生したみたい。


 ヨーロッパ風の世界へ。


 本来中世期のヨーロッパは、トイレは外でするのが普通。

 もしくは壺。

 それは外に捨てる。

 下水ができたのは近世間近。

 私がいる世界は、中世のはずなのに、下水道がある。

 蛇口から水道が出る。

 ガスはないけれども、生活魔法っていうもので、お湯も簡単にわかせちゃう。

 魔法がある。

 この時点で、この世界はファンタジーだと思った。

 ちなみに、私はヒロインの立場に生まれたはず。

 お金持ちの貴族の娘。

 だけど、母さんはもう亡くなっていて、義理の母がいる。

 母の葬儀から間を置かず、父は彼女を屋敷に連れてきた。しかも娘も一緒に。

 その子は、私と血がつながっているらしい。

 父は浮気していた。

 記憶を取り戻した今はわりかし冷静に受け止めている。

 

 まあ、シンデレラのように私は虐められている。

 家事とかやらされ、使用人扱いだ。

 記憶が戻る前は毎日泣いて暮らしていた。

 けれども記憶が戻った今、私は確信している。

 いつか王子様が現れ、私を救ってくれると。

 私は虐げられる可哀そうなヒロインに転生したのだ。


 そう気が付いたので、家事とか頑張るのをやめた。

 私は生活魔法が使えたので、手を抜きながら家事をする。掃除は継母と妹が生活する範囲のみを綺麗にする。

 彼女たちの行動する範囲だけ綺麗にしておけば、問題ない。


 八歳の時は母を亡くし、葬儀が終わってすぐ、継母たちがやってきた。

 本当に酷かった。裏切りだ。

 当時私は泣いていたけど、優しい私は妹に少しだけ期待していた。楽しみにしていたのだ。

 だけど、継母は私の顔があまりにも母に似ていたので、虐め倒すことにしたらしい。

 妹はそれを見習い、同じように私を虐める。

 父は見て見ぬふりだ。

 母から教育を受けていた私は、文字は書けたし、読めた。

 だから日記をつけていた。

 記憶を取り戻した自分が読むと悲しいけど、同時にオカシイと思う。

 我慢する必要なんてないのに。

 頑張る必要はないのに。

 ああ、我慢はする必要があるかも。

 王子様が来るまでは虐げポジションをやり遂げなきゃ。

 生活魔法を使って、王子様が来るまで適当に過ごそうと思ったのに、ある日、異変が起きた。

 突然、チカチカ光る、光の玉が現れたのだ。

 光が眩しくて、光の玉としか認識ができないのだけど、その玉は言葉を話した。

 ああ、話すというのは間違っているかも。

 声が頭に響くのだ。


『私は、よ、妖精だ』


 その光の玉はそう私に呼びかけた。

 妖精、そういえばティンカーベルも光の玉にしか見えなかった。眩しすぎて、普通の目にはそうとしか見えないかもしれない。

 サングラスとかあれば見えるのかな。

 まあ、ここにはないと思うけど。


『私は君の生活をしばらく観察した。君は虐められているが、めげてはいない。それは尊敬する。だけど、怠けすぎだ』

「はい?どういう意味ですか?怠けているって?」

『時間が余ったら、勉強するのはどうか?』

「勉強?本もないのに?妹から借りたらいいのだろうけど、借りたら面倒なことが起きると思うの」

『そうか、それじゃあ、私が持ってこよう』


 光の玉はそう言って消えてしまった。

 幻だったのかなと思って、私はいつもの家事に戻る。

 まあ、生活魔法を使うので楽なものだ。


 翌日、光の玉、妖精さんはなんと本を持ってきた。

 それは歴史の本だった。

 難しかったけど、妖精さんが色々教えてくれて読み終わることができた。

 読み終わると妖精さんが新しい本を持っていく。


「……あのね。私眠いのよ。朝早いし」

『朝起きるのは早いけど、途中寝ているではないか』


 そう私は適当に家事を終わらせると、誰も来ない部屋に入り込んで眠る。だって朝早いもん。継母や妹のスケジュールは分かっているから、見つかることはない。

 使用人たちは私の仲間だ。

 私の境遇に同情してくれるし、彼女たちの仕事も手伝ってあげるから、友好な関係を築けていると思う。


『それに、こんな生活を続けていて将来どうするつもりなんだ』

「将来?大丈夫、王子様が迎えにくるから」

『どうして、それを知っている?』

「え、妖精さんも知ってるの?まさか転生者?」

『転生者?なんだそれは。預言者か?』

「うーん。ちょっと違うけど。とりあえず妖精さんは転生者ではない。それじゃあ、神様の使い?」

『君は神様を知っているのか?』

「知らない。だけど、運命は神様が作るんでしょ?」

『それはそうだが……』

「私の運命は、王子様が迎えに来る運命。だからただ待っているだけでいいの」

『それは間違いだ。ただ待っていては王子様は来ないぞ。君は色々学ぶべきだ。大体魔法も生活魔法しか使えないのは問題だ』


 その日から妖精さんは張り切ってしまい、私の休憩時間はすべて勉強に当てられてしまった。

 結構ハードで、暗記、暗記。あとは魔法の練習。

 かなりスパルタ気味で泣きそうになったこともあった。

 というか、私がそこまでやる必要があるのっとブチ切れたこともあった。

 けど妖精さんに、将来どうするのだ。王子様が来なかったらどうやって暮らすつもりだ。この家にずっといるつもりかとコンコンと説教され、妖精さんのスパルタ教育を受け続けることを決めた。

 そうやって、妖精さんから色々教えてもらって、一年が過ぎた。


「うん?なんか妖精さん。形がはっきりしてきたような?人型?ティンカーベルもそうだしね」

『ティンカーベルとはなんだ?』

「えっと、私の前の世界の物語に出てくる妖精さん。可愛いけど、嫉妬深くて友達を取られたくなくて、女の子を殺そうとしたりする、ちょっと怖い妖精よ」

『それは怖いな』

「でしょ?妖精さんは、怖くないよね」


 妖精さんと過ごすうちに、私は前世の話をしてしまった。

 そしてなぜ王子様が来てくれるか説明すると驚いていた。

 まあ、ある意味思い込みかもしれないなあ。

 最近、王子様が来ることを妄信するのをやめた。

 だって、この世界。

 もしかしたら私が想像しているヨーロッパ風の物語の世界ではないかもしれない。

 そうであっても私がヒロインだとは限らないから。

 勝手に思い込んでいたんだなあと今とても反省している。

 妖精さんのおかげだ。

 あのまま、ただ待ち続けていたら、とんでもないことになっていた。

 ずっとこの家で奴隷のような扱いだ。

 色々手は抜いているけど、気持ちいいものではない。

 


 「妖精さん、へえ、そんなカッコいい顔してたんだね。同じ位の歳に見える」


 妖精さんが現れて三年、私が十五歳の時、妖精さんの姿がはっきり見えた。

 金色の髪に青色の瞳。

 かなりカッコいい顔だった。

 そうそう、あの映画のエルフにとても似ている。

 中性的。


 妖精さんのおかげで、色々わかるようになった。

 そして完全に王子様が来る夢を捨ててしまった。

 だって、できることが増えてしまったもの。

 魔法の幅も広がった。

 妹は学校に行き始めたけど、私は通わせてもらっていない。

 まあ、前世から学校嫌いだからいいんだけど、問題は王子様に見染められないことだよね。

 まあ、王子様が迎えにくる話は諦めたからいいけど。


 今興味あるのは、実力勝負の魔法騎士団に入ること。

 妖精さんが持ってきてくれた本に乗っている彼らは物凄いかっこよかった。

 女性もいたし、私もその一人になって活躍したかった。

 その話を妖精さんにしたら、嫌そうな顔をされてしまった。

 うーん。

 なんで。

 

 十六歳になって、私は家を出て魔法騎士団の入学試験を受けた。

 実力世界なので、出自は問わない。

 まずは参加資格、魔法量って計ったことなかったけど、私は相当あったらしい。

 そうして私は無事魔法騎士団に入団した。

 父は厄介払いできたみたいでほっとしていた。継母と妹は二度と戻ってこなくていいからと言っていた。

 私も二度と戻りたくない。

 使用人の皆にはお世話になったから、何かあったら連絡くれるように伝えた。


 入団が決まってから、妖精さんが現れなくなった。

 三年間、傍にいてくれたので不安になった。

 いなくなるなら一言言ってくれればいいのに。



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