表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

依頼


「終わったのね」


 瓦礫の上に座り込むマグナスのもとへ、コルトがやってくる。


「ああ。案外強い奴だったよ」

「そうね、村がこんなになっちゃって」


 ラウゴに荒らされ、殺風景になった村を眺める。これほどまでの実力がありながらなぜ村を襲うような真似を犯すのか、マグナスには理解しかねた。


「ねぇ」


 コルトが耳元でささやく。


「なんだ」

「手を抜いてたでしょ」

「どうしてそう思う?」


 マグナスはとぼけるように聞き返す。


「魔力障壁なんて簡単に貫けたくせに」

「……力の加減を間違えれば周囲に被害が及びかねない。それだけだ」


 ほどなくして、村人たちがぞろぞろと出てくる。傷つき、怯えながらも生きている面々だ。


「この度は村を救っていただきありがとうございます……! なんと礼を申せばよいか……」


 村長がマグナスたちに深々と頭を下げる。


「まぁこの有様だと救ったとも言い難いけどな」

「滅相も無い! 命があるだけ救いです。助けがなければ今頃……」


 村長の声は震え、感謝は何度も繰り返された。だが、ふと彼の視線がマグナスの腰にある銃へ向かう。


「……あなた様はもしかして弾丸の魔術師様では?」

「なんだって?」


 村長の一言に、マグナスは思わず身を乗り出した。


「あ、いえ……あなた様の戦いを遠くから見ていたのですが、あれはまさしく弾丸の魔術師様なのではないかと思った次第でして……」


 この世界に存在する四大魔術師のひとり――弾丸の魔術師。ただ十年以上前から姿を消し、名だけが残されている存在だ。


「……残念だが俺は違う。ただ村長さん、あんたにちょっと聞きたいことがあるんだが……これに見覚えはないか?」


 マグナスは胸ポケットから銃を取り出す。ラウゴにとどめを刺す際に使った銃だ。


「多分その弾丸の魔術師とやらが使ってた銃だと思うんだが」

「ふぅーむ……見たことも無い質感の銃ですな。申し訳ありませんがわたくしではお力になれそうにありません……」

「そうか……変なこと聞いて悪かったな」


 村長は最後にもう一度礼を伝えると、村の片付けに戻っていった。見渡すと、復興に励むものや家族の死に涙する者、それでも立ち直ろうと奮闘する者など村人たちの勇ましい姿が見て取れた。


「コルト」


 瓦礫の撤去を手伝っているコルトに呼びかける。


「あとは俺が手伝う。お前はほかにやることがあるだろうから、今日はもうこの辺にしとけ」

「……そうね。じゃあ後は任せるわね」

「ああそうだ。どっかにわざと生かしておいたやつがいると思うから、そいつの回収だけ頼んだ」

「了解」


 マグナスと交代するようにしてコルトは空へと飛び去っていく。ただ大量の瓦礫の山に少しだけため息が漏れるマグナスだった。



* * *



 一通りの掃除を終え、マグナスは丸太の上に腰を下ろして休憩していた。ポケットからハンカチを取り出し、銃についていた砂埃を綺麗にふき取っていく。


「あの……少しいいですか?」


 手入れをしていると、背後からおとなしい声がした。振り向くと一人の少女――ミーナが立っている。


「何か用か?」

「よ、用というほどでは……。ただ自分からもお礼を伝えたくて……」

「律儀なやつらだな」


 マグナスは無表情のまま視線を戻し、手入れを続ける。少女はためらいながらも隣に腰を下ろした。


「私……悔しいんです。私にもっと力があったら……あの悪人たちからみんなをも守れたのにって……」

「…………」


 少女は自身のやるせない気持ちをマグナスに告げる。彼もまた静かにその話を聞いていた。


「……お前はあいつらのことを悪人だと思うか?」


 静けさの中、ふとマグナスの方から疑問が出る。


「と、当然です! 力に頼って人を殺して平気で笑ってるんです。悪人以外の何者でもありません……!」


 少女は行き場のない怒りをあらわにして答える。その感情に偽りはない。


「そうだな……じゃあ俺のことは悪人だと思うか? 俺はあいつらを殺した」

「え……そ、それは……」


 少女の言葉が喉に詰まる。怒りと戸惑いが入り混じり、答えが出てこない。


「……その質問なんだか卑怯ですね」

「そうだな……難しいこと聞いたな」


 マグナスは立ち上がる。背を向けようとした時、少女がもう一度声をかける。


「その……どうして銃を使ってるんですか?」


 少女は尋ねる。どうして廃れた武器を使っているのかを聞きたいのだろう。


「昔から触ってきたから……それだけだ」

「私でも……扱えますか?」

「さぁな」


 去る途中マグナスは振り返りざまに指先で何かを弾いた。銀色の光がひらりと落ちる。手渡されたのは小さな弾丸だ。


「村が元通りになったら、訓練してみるといい。いつかお前が村の連中を一人で守れるくらい強くなることに期待しておくよ」

「……はい!」


少女の顔はぱっと輝いた。感謝の声が周囲であがる。

マグナスは素っ気なくロングコートの裾を翻し、闇へと歩き去っていった。


風が吹き、コートがはためき、彼の姿はやがて村の影に溶けていった。



* * *



 仕事を終え、マグナスはギルドへと戻る。

 正面の扉はすでに閉ざされており、裏口から鍵を開けて入る。


「はぁぁぁぁ」


 裏口のドアを閉めるや否や、マグナスの口から大きなため息が漏れる。


「ぬぅわあああああ! 疲れた! 疲れたぞ! もう寝る! 寝て起きてまた寝る!」


 取り繕っていた彼の仮面がはがれた。疲労に怒りをあらわにした様子でマグナスはカウンターの奥へと向かい、私室へと入っていく。


 すると、部屋の中から小さな寝息を立てる音が聞こえてきた。


「お、おい……」


 コルトが彼のベッドの上で眠っていたのだ。枕にしがみつき、気持ちよさそうにしている。


「俺の寝る場所……どこ……」


 仕方なくロングコートを毛布代わりにしながら、床に大の字で倒れ込む。

 村を救った男の一日は、あまりにも静かで、情けなく終わっていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ