依頼
村の中心にて両者は相対する。遠くからはコルトや村人たちがその様子を見守っていた。村人の目には決闘のように映っているのだろう。しかし、コルトにはただの処刑場にしか見えなかった。
「おらぁっ!」
斧が右へ左へ振り回される。その衝撃波が畑や家屋を轟音と共に荒らしていく。
「おいおいそんなに暴れてどうする。解体屋にでも転職する気か?」
「ほざけ!!」
ラウゴはマグナスめがけて飛び上がり、斧を振り下ろす。その一撃で石畳は粉砕
され、家の壁ごとまとめて吹き飛ばした。
マグナスは跳躍して躱しつつ、砂塵の中からラウゴを狙い撃つ。しかし、全身を覆う障壁に阻まれラウゴまでは届かない。
「はぁ、俺の人生で最も後悔するべきことは、この障壁を生み出した術師がいた時代に生まれなかったことだろうな」
戦いの最中、マグナスはため息交じりに愚痴をこぼす。
かつて銃はすべての武器の中で、最も優れた存在だった。だが魔力障壁が術師の間で開発されると状況は一転、銃が戦場のメインとして使用される時代は終わりを迎えた。
「ハッハッハ! どうした、銃使い! 避けるだけじゃあ村ごと更地になるぞ!」
狂気を帯びた笑い声と共に、ラウゴは魔力障壁を纏いながら再び斧を振り上げる。その姿はまるで暴風の化身だった。
マグナスは家屋の屋根の上へと飛び上がり、やるせない表情で空弾を排莢していく。その隙をついてか、狙いすましていたかのようにラウゴは斧を振りかざす。
だがマグナスは慌てることなく袖に忍ばせていた弾を宙に投げ入れ、鮮やかにシリンダーの中へと収めていく。想定外のあまりにも素早いリロードにラウゴも目を見開いた。
正面を切って向かってくるラウゴに対し、マグナスはゼルファで斧に銃弾を当ててはじき返した。弾かれた振動で、ラウゴはバランスを崩し地面に落下する。パキンと障壁にひびが入るような音がした。
「まずい……!」
ラウゴは全神経を集中し、魔力を練り上げることで障壁の補強に入る。
「……へっ」
必死になるラウゴを眺め、マグナスは薄ら笑う。全身に魔力障壁を展開する行いは魔力消費の観点から見て、非常に効率が悪い。ただ、ラウゴはそれを知っててもなお全身を守ることしかできない。
理由はただ一つ。
マグナスは引き金に指をかける。瞬間、両手の銃口がほぼ同時に火を噴く。弾丸が広場の瓦礫を駆け巡り跳弾となって、死角からラウゴの背を撃ち抜く。障壁が火花を散らして軋んだ。
「チマチマとうるせぇッ!」
斧を振り回すたび、青の障壁がさらに厚みを増していく。もはや小手先の弾では砕けそうにない。ただ、彼にとってはそれで良かった。
これこそがラウゴが全身に障壁を展開し続けなければならない理由。マグナスはマグナスをどの角度からでも正確にラウゴを打ち抜くことができる。だからこそラウゴは内心ずっとそれに怯えているのだ。
マグナスは、なおも撃ち続ける。壁、地面、鉄屑、ありとあらゆる反射面を利用し、十発二十発と跳弾を雨あられと浴びせる。次第に障壁が震え、再び亀裂が走った。
「……効いてるな」
マグナスの笑みがわずかに深くなる。対するラウゴからは余裕の色が消えうせる。魔力がもう尽きようとしているのだ。その先にあるのは――。終わりの時が刻一刻と迫る。死が肌からじわりと伝わっていく。
「はぁ……はぁ……うおらああああああ!」
後が無いラウゴは最後の魔力を振り絞り、斧を地面へと力の限り叩きつける。大爆発が起きたかのような衝撃波が起こり、突風が耳と視界を飲み込む。地鳴りが起こり、砂塵が舞う。マグナスは瓦礫もろとも吹き飛ばされていった
「ぜぇ、ぜぇ……どうだ……思い知ったか……」
憔悴しきったラウゴはふらふらと体をよろめかせる。持つのさえも億劫なようで斧を地面に放り投げた。
彼を中心に村はもはや更地同然のような姿へと変わり果てた。
月明かりがその巨躯を照らし、勝利者のごとき影を地面に落とす。ラウゴもまた天を仰ぎ、勝利の感覚に酔いしれていた。
「おお……神よ……私はやり遂げ――」
その言葉は途切れた。
恍惚とした表情を浮かべていたラウゴの顔に恐怖が現れる。
カランと薬莢が瓦礫に落ちる音。
月明かりを背後に、銃を構える男の影。
マグナスが両手で一つの銃を握り締め、狙いを定めていた。
白い銃でも黒い銃でもない、煤けた黒鉄の銃。
しかし銃身には青白い炎が脈打つように這い、異様な光を放っていた
「エクシドラ」
マグナスがポツリと呟く。その呪文と共に銃口から青く輝く炎の弾が打ち出された。炎はまるで流星のように闇夜を照らす。ごうごうと燃え盛る音とともに、落ちてくる。
逃げる余力も、残っていない。
「死ぬのか、俺は……馬鹿な――」
流星ごとき青炎の弾丸がラウゴの心臓を貫いた。
声は炎に飲まれ、巨体は崩れ落ちると同時に灰と化し、風に散った。
静寂。
広場に、安寧が訪れた。
唯一響くのは、マグナスが吐いた深い息だけだった。




