依頼
マグナスはワイバーンの背に跨り、風を切って進んでいた。夜風がロングコートをはためかせ、銃の金属部分が鈍く光る。眼下には、灯りの消えた村が小さな影のように広がっている。
その彼の前方から、小さな影が弧を描いて飛んできた。
「マグナス」
やってきたのはBランクの魔物、シュネルコンドル。そのくちばしから、澄んだ女性の声が聞こえる。
「コルト、どうだった?」
「村を一周して調べてきたけど、十人以上はいるわね。村の中心から三時の方向に二人、六時に三人、八時に二人、正面に二人……そして一時の方向にある納屋に人質が収容されてる。おそらく残りの敵もそこに潜んでるわ」
「なるほどな」
相手はかなりの厳重警備。何者かに襲撃されることを想定しているかのような立ち回りである。
「正面突破は流石に無理ね。必ず誰かに合図される」
コルトの声は冷静だったが、その気配が少し強張っているのが分かる。人質がいる以上、下手な攻撃はできない。
「確かに正面からだと少し厳しいな」
「となるとやはり隠密行動で納屋に忍び込むしかないわね」
「いや」
マグナスは軽く首を振った。
「ワイバーンをバレないよう村の高空につける」
「えっ?」
「相手もまさか自分の頭の天辺ぶち抜かれるとは思ってないだろうなぁ」
ワイバーンの背から身を乗り出し、下を覗く。その目はまさしく暗殺者が対象を狙う時のそれであった。
「……まさかとは思うけど、ここから飛び降りて打ち抜く気じゃないでしょうね?」
「それしかないだろう」
この高さから飛び降りるだけでも無謀だ。そのうえ落下中に敵を全員撃ち抜くなど、正気の沙汰ではない。コルトは思わずため息をついた。
「……できるの?」
「なぁに、支障ない」
マグナスは笑って見せる。いったいどこからその自信はやってくるのか分からない。分からないが、彼は任務のたびに笑い、そして一度も失敗はしなかった。だからコルトは結局その背中に任せるしかないのだ。
ついにワイバーンは村の真上へと到着する。運がいいのか、今日の風は非常に穏やかであった。マグナスは腰から銃を素早く取り出し真下を見据えて狙いを定めていく。
「さぁ始めるぞ。罪人は血がお似合いだ」
狂気じみた笑顔を見せる。そして次の瞬間――
マグナスは大の字に両腕を広げ、風を浴びるように飛び降りた。
夜の闇を裂くように、ロングコートがはためく。耳が風邪を裂き、雲を抜ける。
――時間が、伸びる。
彼の視界に夜の村が広がる。屋根の上の影、焚火の明かりに照らされた男の気味の悪い顔、村の周囲を巡回する姿――すべてが一瞬で彼の脳裏に焼き付く。音が――遠のいていく。
「まず一人」
マグナスは右から白い銃――キリエルを引き抜き、引き金を引いた。火花が散り、閃光が暗闇を突っ切る。遠くの屋根の上、見張りの男が崩れ落ちた。
「次」
すかさず左から黒い銃――ゼルファが唸る。六時方向、焚き火のそばにいた重装備の男の頭がはじけ飛び、地面に転がる。落下しながらもなお、照準はずれない。むしろ、落下速度に合わせて狙いが研ぎ澄まされていくかのようだった。宙で弧を描くようにマグナスは敵の頭を正確に打ち抜いていく。
相手も仲間が次々にやられ、ようやく異変に気付き始める。
「お、おい大丈夫かっ――」
だが声を上げる暇もなく、次の弾丸が飛ぶ。血しぶきが舞い、夜空を彩っていった。
発砲から時間にして三秒も経たなかっただろう。その短い間で外の殲滅が完了した。射撃を終え、マグナスは宙で体制を立て直す。その両肩を捕らえるようにしてシェネルコンドルが空から急降下しキャッチ。砂埃を上げ、地面にふわりと着陸した。
「サンキュー」
「まったく、無茶するわね」
「だが、まだ終わりじゃない」
「ええそうね」
二人の視線の向く先、そこに納屋があった。




