なにか、ちがう気がして
その日、支部では何人かの依頼人が、新しい斡旋方式で職業を紹介されていった。
どの依頼人も、一応は就職先が決まった。
書類上は、全員「適正あり」とされた職に、無事に割り振られている。
でも。
ミーナの胸には、ずっと小さな違和感がくすぶっていた。
待合席で求人票を受け取った依頼人たちの、あの顔。
決まった瞬間、安堵よりも戸惑いを浮かべる表情。
力ない「……はい、頑張ります」という声。
──こんなの、見たことなかった。
(ゴルザンさんのときって、こんな感じ……じゃなかった気がする)
ふと思い出すのは、かつての支部長、ゴルザンのことだ。
豪快で、いい加減で、でも。
依頼人一人ひとりの言葉をちゃんと聞いて、背中を押していたあの人。
「迷ったら、まず腹ァ括らせてやるこった。細けぇ条件はそのあと詰めりゃいい」
豪快に笑いながら、そう言っていたっけ。
ミーナは、無意識に胸元の手帳をぎゅっと握りしめた。
──今のやり方は、間違ってはいない。
数字も理論も、全部正しい。
だけど。
(正しいだけじゃ、足りない気がする)
ふと、隣のカウンターを見ると、リリアが来客応対をしていた。
「はいっ、お仕事探しですね☆ じゃあまず、こちらの用紙にご記入お願いしまーす!」
明るく元気な声。
でも、その後ろ姿は、どこか張り詰めて見えた。
受付カウンターの奥、帳簿記入をしているベイルも、いつも以上にきっちりとした字で記録をつけていた。
ハナミは備品棚を整理しながら、ちらちらと様子を見ている。
誰も文句は言わない。
みんな、普段と同じように仕事をこなしている。
──だけど、
支部全体の空気が、確実に変わっている。
(これが、“改革”ってやつなんでしょうか)
ミーナは、ひとり小さく首を振った。
どんなにルールが変わっても、どんなに手順が効率化されても。
ここに来る人たちは、書類の数字じゃない。
生きていて、悩んでいて、必死に前を向こうとしている人たちだ。
(私……ちゃんと、向き合えてるのかな)
気づけば、業務報告用のシートに書き込む手が止まっていた。
カリカリとペンを走らせる音だけが、妙に支部内に響く。
(効率も大事。でも、効率だけじゃ、届かないものもあるはずで……)
そんな考えが、ミーナの中にぽつりと芽生えた。
ミーナは深呼吸して、もう一度、ペンを握り直した。
──今はまだ、うまくできないかもしれない。
でも、忘れたくない。
斡旋人としての、自分なりの“正解”を。
静かにそう決意して、ミーナは次の業務に取りかかった。