その依頼人、見覚えがありますわ!
相談カウンターに、ひとりの青年が姿を見せた。
清潔感のある黒髪、丁寧な所作、少しだけ固い笑顔──
(……どこかで、見たことがあるような)
ミーナ=ルクトリアは首をかしげた。
カウンター越しに、青年が深く頭を下げる。
「ご無沙汰しております。カイ=ローデスと申します」
その名前に、ミーナは思わず目を見開いた。
(カイさん……!)
あの、かつて。
倒産した家業の後始末を背負い、ようやく自由になったものの、自分で何をしたいかもわからず、途方に暮れていた青年──
その彼が、堂々とした佇まいでここに立っている。
「わあっ……! 本当に、お久しぶりです! 今日は、どうされましたか?」
ミーナが嬉しそうに声をかけると、カイは少しだけ照れたように笑った。
「ええ。実は……今勤めている工房商会で、支店長を任される話が出まして」
「えっ、すごいじゃないですか!」
思わず身を乗り出したミーナに、カイは苦笑した。
「革製品や文具、小物──手帳カバーや鞄、シルバー細工も取り扱う工房です。上質な品を求める方々向けのお店で、品質だけでなく、顧客対応にも細やかさが求められるので、ここ最近はスタッフ研修に付きっ切りです」
ミーナは大きく頷いた。
(カイさん、すごいな……ちゃんと世界を広げてる)
カイは、少し真剣な顔になる。
「今回、補佐をお願いできるスタッフを一名、追加で採用することになりまして。そのご相談でお伺いしました。店頭ではなく、在庫管理や会計処理を任せられる、誠実な方が必要で……。できれば、革製品やシルバーに少しでも馴染みがあると嬉しいんですが、これがなかなか……」
(……なるほど)
その話を聞きながら、カミーユ=フロリネッタはそっと胸に手を当てた。
(……それなら、もしかして)
ぱちん、と小さな音を立ててカミーユが手を叩く。
「もしかして、こういう方を、お探しではありませんか?」
彼女は、そっと一枚のファイルを差し出した。
そこには、レイト=ヴァレンタの名前が記されていた。
革素材の卸会社で長年、在庫管理と会計事務に携わっていた経歴。
穏やかで、堅実な人柄。
カイはじっとファイルを見つめ、やがて、ふっと目を細めた。
「……こういう方に、支えてもらえたら、すごく助かる気がします」
その言葉に、ミーナもカミーユも、ほっと胸をなでおろした。
──あのとき、必死に選んだ一歩が。
今、誰かを支える力になっている。
ミーナは、静かに思った。
(これが、きっと、“斡旋人”って仕事の意味なんだ)
支部の窓から差し込む光が、今日も穏やかに、彼らを照らしていた。




