第八話 リオル・ミチェスの酒場
メリサは立ち止まって辺りを見回した。首都・ヴィゲルナーディストに来るのは久しぶりだったが、相変わらず賑やかだった。何せ10キロほどの距離があるし、2週間に1回くらいの買い物の時にしか、首都に行くことはなかった。
けれど、フレイとバレットが生まれて家族が増えたし、今までよりも首都に来る頻度は増えるかもしれない。
メリサはそう思いながら、歩き出そうとした。だが、フレイとバレットがジッと石畳を見ていることに気付き、足を止めた。石畳は数秒事に色を変えていた。多種多様な色に変化する石畳なのだ。
初めて首都・ヴィゲルナーディストを訪れた時、目まぐるしく変化する石畳に酔ったことを覚えている。あの頃はまだ赤毛の存在に気付いていなかったし、父親とはもう二度と会えないと思っていた。自分一人で出生届を出した日が懐かしい。
「キレイな石畳だけど、ずっと見ていたら、何だか酔いそう。バレットちゃんもそう思わない?」
「ガルルルルル!」
フレイの言葉にバレットは可愛らしく頷いた。色が変化する石畳に目が回ったのか、バレットは軽く頭を振った。その直後、フレイとバレットのお腹が同時に鳴った。恥ずかしかったらしく、2人とも顔を赤らめて俯いた。なんて可愛い反応なんだろうとキュンときた。
「出生届を提出する前に、まずは昼食を取ろうか」
メリサはそう言うと、『リオル・ミチェスの酒場』に向かって歩き出した。『リオル・ミチェスの酒場』は首都・ヴィゲルナーディスト内でも、とくに人気が高い酒場だった。
オープンの札がかかった木製の扉を開けると、地下へと続く石段が現れた。メリサは繋ぎっぱなしだった手を離すと、フレイとバレットに後ろから付いてくるように言い、一列になって石段を降り始めた。
☆☆
薄暗い地下に石段を踏む音が響き渡る。メリサは最後の一段を降りると、古びた木製の扉を開けた。その瞬間、メリサの方向に何かが飛んできた。
「え? あっ、あなたはさっきの……」
メリサは目を見開き、自分の方に飛んできた男を見つめた。その男は少し前に会った生命管理局のヴィオス・ファザールだった。顔がほんのりと赤い。漆黒の翼も一部分が赤く染まっていた。
「おや?」
ヴィオスは立ち上がったが、足元がフラついていた。顔が赤いところを見ると、すでにかなり飲んでいるのかもしれない。
「こんなところで会うとは奇遇ですね」
ヴィオスはそう言いながら、満面の笑みでメリサの腰に触れた。それと同時にヴィオスの体が吹っ飛んだ。ヴィオスは鼻血を噴きながら、酒場の端まで転がっていった。
「ったく、注意したばかりなのに、何やってんだ」
メリサの斜め左に拳を握り締めた女性が立っていた。軽くウェーブがかかった金髪に透き通った鼻筋で、黒いブラウスの上から赤色のコルセットワンピースを着用している。この女性が酒場の女主人――リオル・ミチェスだった。
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