第二十話 三角雨
「またお会いしましたね」
ヴィオスはまだ店内に残っていたメリサに近付こうとしたが、レイフォスに止められた。まるでヴィオスから、メリサを守ろうとしているかのようだった。
「何で止めるんですか? レイフォスさん」
「リオルさんの酒場で飲んだだろ。酒臭いぞ。お前は酔っぱらうと、すぐに女性にボディタッチするからな」
「確かに酒は飲みましたが、それなりに時間は経っているので大丈夫ですよ」
ヴィオスはそう言いながら、メリサたちに笑いかけた。酒場で腰を触られたことを思い出しながら、メリサはヴィオスに軽く会釈した。
「お前、さっき『またお会いしましたね』って言っていたが、すでにボディタッチしてないよな?」
「……さあ、どうでしたかね?」
ヴィオスはバツが悪そうにレイフォスから視線を逸らした。その様子に何かを察したようで、レイフォスは振り返ってメリサを見た。
「あの、その人に酒場で腰を触られました」
メリサがボディタッチされたことを告げた瞬間、雨が降り始めた。フレイとバレットは初めて見る雨に目をキラキラと輝かせている。
久しぶりに降った雨は三角雨だった。三角形の雨で先が角張っていて、体に当たると、けっこう痛いのだ。ジェロヴィゲル国は様々な形状の雨が降るが、その中でも、メリサは三角雨が一番嫌いな雨だった。先が角張っていることもあり、触れた箇所が腫れて赤くなることがあるのだ。メリサはそれが嫌だった。
「酒場で腰を触られたのか。だったら、こいつはリオルさんから鉄拳制裁を食らったな」
「はい、リオルさんに思いっきり殴られてました」
メリサはレイフォスの言葉に頷いた。ヴィオスの様子を窺うと、いつの間にやら、降る直前でメリサが呟いた言葉を立体化させて、三角雨を防いでいた。頭上に浮遊させた言葉が三角雨を弾き飛ばしている。
「それじゃ、私たちはこれで失礼します。フレイちゃん、バレットちゃん、行こっか」
メリサは三角雨に夢中のフレイとバレットを促し、店の入り口に向かって歩き出した。慌てたように、フレイとバレットは後をついてくる。
「この雨の中だ。気を付けてな」
「はい、ありがとうございます」
メリサはレイフォスに軽く会釈し、店を出ようとした。
「私がいれば、三角雨に濡れることなく、帰ることができますが、いかがなさいますか? 迷惑じゃなければ、送っていきますが」
ヴィオスが自分の言葉を立体化させながら、メリサに声をかけてきた。メリサは少し逡巡した。三角雨は当たったら痛いし、濡れずに帰れるならば、それに越したことはない。ヴィオスの提案をありがたく受け入れることにした。
「よろしくお願いします」
メリサはそう言いながら、頭を下げた。ヴィオスは頷くと、立体化させた言葉をメリサたちの頭上に浮遊させる。店の外に出てみると、頭上の言葉が三角雨を弾いて、まったく濡れなかった。
「では行きましょうか」
ヴィオスに促され、メリサたちは歩き出し、ヴィゲルナーディスト市場を後にした。
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