第十九話 ヴィオスの実力
メリサの力強い頷きに、フレイとバレットは安堵したかのように表情を緩めたが、ゴスロリ衣装は握り締めたままだった。
その時、ドスン、と地響きのような鈍い足音が聞こえた。足音に驚いたらしく、フレイとバレットがビクリと体を震わせたのが分かった。足音が響くたびに、店先の石畳に大きな影が揺らぐのが見える。すぐそこまで災恐獣が近付いているようだった。
「ブルァァアア!」
耳を劈くような咆哮が聞こえ、店先に災恐獣が姿を現した。鋭く尖った棘状の鱗に全身が覆われ、渦巻き状の2本の角を持つ巨大な体躯の災恐獣はニーバイスという生物だった。凶暴な肉食獣であり、月に何十人もの人や何十匹もの生物が襲われて重症を負う者が後を絶たないと聞く。
「ブルァァアア!」
ニーバイスは咆哮を上げて突進してきたが、レイフォスが構築した術式“月華防壁”に阻まれて店に入ってくることはできなかった。巨大な体躯の突進を受けても、防壁はビクともしていないように見えた。相当な耐久力のようだった。
「報告にあった災恐獣はニーバイスでしたか」
ニーバイスの突進を固唾を呑んで見守っていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。いつの間にか店の前にヴィオスが立っていた。酔いはもう覚めたのだろうか。
「ブルァァアアアア(術式“螺旋棘”)
ニーバイスの全身に術式が浮かび上がり、螺旋状の棘がヴィオスに向かって射出された。それとほぼ同時に、ヴィオスが指を鳴らし、ニーバイスの咆哮が立体化した。ヴィオスの前に立体化した咆哮が、まるで壁のように浮遊して螺旋状の棘を防いだ。弾かれた棘が石畳に落ちる。
「ブルァァア!」
ニーバイスは苛立ったかのように、ヴィオスに向かって突進した。
「術式“鎖字捕縛”」
ヴィオスの右腕に術式が浮かび上がった瞬間、咆哮の文字が連なり合って鎖と化した。鎖状の咆哮がニーバイスの体躯に巻き付いて動きを止めた。ヴィオスが右腕を上げると、ニーバイスの体が浮いた。どうやら、体に巻き付いた文字の鎖によって宙に浮いているらしかった。
「ニーバイス、あなたを住処に帰してあげますよ」
ヴィオスがさらに右腕を動かすと、ニーバイスは上空に浮かび上がり、勢いよく彼方へと飛び去って見えなくなった。
「さあ、皆さん、災恐獣の脅威は去ったので安心してください」
ヴィオスが客に声をかけ、レイフォスは防壁を解除した。客は安堵の表情を浮かべると、ぞろぞろと店を出て、帰っていった。
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