第十八話 災恐獣
メリサは術式“回光気”を使用する際に、石畳に置いた3枚の鼻ちょうちんぺったんを手に取ると、籠に入れた。バレットも左腕に抱えたままだったヴィゲブランタを籠に放り込んだ。
肩にかけたままだった図書館で借りた籠をかけ直すと、メリサは野菜や果物等でいっぱいの籠の持ち手を両手で握り締めた。
メリサは用事も買い物も終えて、次はどうしようかと考えた。とりあえず、図書館やヴィゲルナーディスト市場の籠をリオルの家に置かせてもらうことにした。リオルの家は酒場の真上にあった。地下で『リオル・ミチェスの酒場』を経営し、地上が自宅になっているのだ。
メリサはそう考え、フレイとバレットに声をかけて、『リオル・ミチェスの酒場』に向かおうとした時、緊急事態を知らせる警報音が聞こえた。
『災恐獣が首都に迷い込み、ヴィゲルナーディスト市場方面に向かっているとの報告。お客様は生命管理局の職員の指示に従い、ただちに避難してください』
空中に浮かぶ漆黒の球体から女性の声で避難勧告の緊急放送が流れた。生命管理局の職員が使用する緊急事態用の術式“黒球声波”だった。漆黒の球体を通して増幅させた声を周辺に響かせる術式である。
「みんなこっちへ来るんだ。あんたたちも店の中へ」
レイフォスは客に店の中に入るように呼びかけていた。客はレイフォスの指示に従い、店の中に入っていく。メリサたちもレイフォスに手招きされ、店の奥へと避難した。
「術式“月華防壁”」
メリサたちが店の奥へと避難したのとほぼ同時に、レイフォスは術式を発動した。右腕に術式が浮かび上がり、月の形をした花が出現する。月の形をした花は凄まじい勢いで回転し、店の前に防壁を張った。
「これで災恐獣は店の中に入ってこれないだろう。安心していい」
レイフォスの言葉に客たちはホッとしたかのように息をついた。それはメリサも同様だった。ジェロヴィゲル国は多種多様な生き物が生息しているが、その中でもとくに危険な生物を総称して災恐獣と呼ぶ。
そんな災恐獣に対処するのも、生命管理局の仕事だと以前にリオルが言っていたのを聞いたことがある。危険な災恐獣を相手にするため、生命管理局の職員は戦闘力が高い者が多いらしい。
ふとメリサはゴスロリ衣装を強く掴まれたことに気付いた。フレイとバレットが、視線を彷徨わせて、ゴスロリ衣装をギュッと強く握り締めていた。警報音と災恐獣という耳慣れない単語を聞き、不安に駆られたのかもしれない。メリサは2人を安心させようと、力強く頷いた。
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