第十四話 レイフォス・シュタイン
メリサは軽く頭を振ると、もう一度、店先に立つ男を確認した。漆黒の衣装を身に纏い、鋭い眼光の男は間違いなく、父親を国外追放した者だった。その男のことをメリサは鮮明に覚えていた。
けれど、父親の姿は朧気にしか覚えていないことに少し罪悪感を覚えた。大切な家族の姿は忘れて、赤の他人の姿は覚えているなんて。もしかしたら父親を国外追放したことに、怒りを感じたから、記憶がより鮮明になって覚えているのかもしれない。父親が悪いのは分かっているけれど。
笑顔で客に接している男の姿を見ているうちに、炎がメラメラと燃え上がって差し迫ってくるかのように、はらわたが煮えくり返った。
メリサが睨み付けていることに気付いたらしく、男はこちらに視線を向けた。男の名前は確か――レイフォス・シュタインだったはず。
「お前は確かクズ野郎が生んだ女じゃねえか」
「……」
まさしくその通りだったので、メリサは何も言い返すことができなかった。
メリサの父親はギャンブルにジェロニランを注ぎこんで、生命代すら持っていなかった。にも関わらず、人工的にメリサを生み出したのだ。当然、生命代を支払えるはずがなかった。挙げ句の果てには『この子を売るので、生命代の支払いは勘弁してください』とメリサを生命管理局に売り、生命代の支払いから逃れようとしたのだ。父親に呆れたことも、姿を朧気にしか覚えていない理由の一つかもしれない。
レイフォスは生命代の支払いを拒否したと判断し、父親の永住権は剥奪され、国外追放された。父親が悪いのは百も承知だけど、生まれたばかりで、唯一の肉親を奪われた喪失感は大きかった。
レイフォスは正しいことをしただけで何も悪くないのは分かっているものの、父親を国外追放したこともあり、良い印象を抱けなかったのだ。あとになって父親はレイフォスに連れて行かれる際に、術式“移魂”を発動して、自分の魂をメリサの赤毛に移していたことが分かった。
父親はレイフォスの言うとおりクズ野郎ではあるけど、今では当時のことを反省して愛情を持って接してくれる。
「ほう、そこにいたのか」
過去のことを思い出していたら、レイフォスがそう呟いたのが聞こえた。
「クズ野郎を国外追放したはいいが、肉体だけで、魂がないのが気になっていたんだよな」
レイフォスはそう言いながら、目を細めて赤毛を睨み付け、メリサは背筋がゾッとした。
また父親が奪われるのではないかという不安が全身を包み込んでいくのをメリサは感じた。
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