第十三話 ヴィゲルナーディスト市場
メリサは生命管理局を出ると、フレイから籠を受け取り、肩にかけた。図鑑の重みがズシリと肩にのしかかる。
「用事は終わったし、買い物に行こうか」
メリサはそう言うと、フレイとバレットと手を繋いだ。どこに買い物に行くべきかとしばし逡巡した後、メリサはヴィゲルナーディスト市場に行くことにした。多種多様な商品を取り揃えている上に、生命管理局が経営しているということもあり、価格もお手頃な市場だった。
メリサは行き先を決めると、ヴィゲルナーディスト市場に向かって歩き出した。
☆☆
生命管理局からしばらく歩き続け、ヴィゲルナーディスト市場が見えてきた。フレイとバレットは興奮するかのように鼻息を荒くしていた。初めての買い物だし、テンションが上がるのは分かる気がした。買うかどうかは別にして、商品を見て回るのは楽しいし。
「フレイちゃん、バレットちゃん。食べたいのがあったら言ってね。何でも買ってあげるから」
「うん、さっき図鑑を読んでいて、気になった果物があったんだ」
フレイはそう言いながら、商品を見て回った。バレットはヴィゲブランタを手に取っていた。『リオル・ミチェスの酒場』で食べて気に入ったのかもしれない。リオルさんみたいに上手く味付けができるかは分からないけど。
「あっ、これだ」
フレイはお目当ての果物を見つけたらしく、嬉しそうな声をあげた。
何を選んだのかを確認すると、レイヴォステンだった。レイヴォステンは七色の味が楽しめる果物で、ふんわりとした食感が特徴的である。
価格は350ジェロニランで、以前より高くなっていた。前に来た時は確か250ジェロニランだったはず。飛行船のモニターで確認した通り、価格が高騰しているのを実感した。ヴィゲブランタの方も確認してみると、400ジェロニランと以前より高くなっている。300ジェロニランとお手頃価格だったのに。
生命管理局が経営する市場といえども、価格高騰の煽りを受けているようだった。
メリサは心の中でため息をつきながら、商品を見て回る。
「あっ、これは……」
メリサは鼻ちょうちんぺったんを見つけて手に取った。リオルさんによれば、父親が好きだったおやつらしい。父親と幼馴染みのリオルさんが言うのだから間違いない。
メリサはあまり美味しいとは思わなかったが、父親が好きだったものを知りたいという思いから、食べるようにしていた。
看板の商品説明によると、レディスト荒野の中間地点にある森林が膨らます鼻ちょうちんを術式で固めて平べったく加工し、半日ほど乾燥させたおやつとある。
術式を施した果実の販売は禁止されているが、これに関しては問題なかった。術式は固めるのに使用しているだけで施してはおらず、そもそも鼻ちょうちんは果実ではない。
鼻ちょうちんぺったんはパサパサしていて、まるで湿ったカサブタを舐めているかのような食感が、あまり美味しいとは思えない理由だった。
とはいえ、おやつとしては最適だから、何枚か手に取ろうとした時、赤毛が蠢いて鼻ちょうちんぺったんに触れた。懐かしそうに、鼻ちょうちんぺったんを撫でる様子に、メリサは胸が締め付けられる思いがした。自分と違って赤毛は食べることはできないから。
メリサとしては赤毛に鼻ちょうちんぺったんを食べさせてあげたい気持ちはあるが、肉体はもうこの国にはない。国外にはあるかもしれないが、すでに腐っているだろう。白骨化している可能性もある。もぬけの殻のようなもので、肉体しかなく、動くことも食べることもできないわけだし。
メリサはしばし感傷に耽った後、鼻ちょうちんぺったんを3枚ほど手に取った。他の商品も見ようとした時、店員として店先に立つ生命管理局の職員の姿が目に入った。
「……っ!」
メリサは思わず息を飲んだ。その男はメリサから父親を奪った職員だった。
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