第十二話 出生届
メリサは石段を上りきり、2階に到着した。少し遅れてフレイとバレットも2階に辿り着いた。生命管理局の2階は様々な手続きを行う場所ということもあり、多くの国民がいた。
メリサは生命管理局生活課の窓口に向かって歩き出した。生命管理局生活課は一番奥のスペースに窓口が設けられている。
メリサは窓口の前まで来ると、フレイとバレットを木製の長椅子に座らせた。
「借りた本を読んで待っててくれる?」
メリサはそう言いながら、フレイたちに籠を渡した。フレイとバレットはコクリと頷き、籠から図鑑を取り出して読み始めた。
メリサは生命管理局生活課の職員に身分証を提示しながら、用件を伝えた。
「それでは出生届に必要事項を記入してお待ちください。お名前をお呼びいたしますので」
メリサは職員から2枚の出生届の用紙を受け取ると、近くの台に向かい、筆ペンで必要事項を記入し始めた。
それぞれの出生届の氏名の欄に『フレイ・アイヴァン』、『バレット・アイヴァン』と記入していく。性別は女にチェックを入れた。関係性の項目はフレイは娘、バレットはペットを選択してチェックを入れる。
住所の欄にはジェロヴィゲル国レディスト荒野8番地と記入する。本籍地の欄はジェロヴィゲル国レディスト荒野と書いた。親の欄には自分の名前を記入した。
そこまで記入したところで、メリサは誕生の経緯の欄がないことに気付いた。自分で自身の出生届を書いた時はどういった経緯で生まれたのかを記入した覚えがある。自分が生まれた時、父親が誕生の経緯を語ってくれたおかげで、書くことができたが、すぐに別れる羽目になるとは思わなかった。父親の姿は朧気にしか覚えていない。
そう言えば、ヴィオスって男にフレイとバレットを誕生させた経緯を説明し、記憶をインプットしていたことを思いだした。ヴィオスが記憶をインプットしているから、誕生の経緯を記入する必要がなくなったのかもしれない。
メリサは2枚の出生届の記入を終え、一息ついた。その数秒後、タイミングを見計らったように、名前を呼ばれた。
「メリサ様、お待たせいたしました」
メリサは2枚の出生届を生命管理局生活課の窓口に提出する。職員は2枚の出生届に目を通すと、受理したことを示す血印を押した。無事に出生届を提出することができ、メリサはホッとした。
職員は「ちょっとすみません」と言うと、窓口の奥にある扉を開け、中に入っていった。出生届を保管しに行ったのだろう。職員はすぐに戻ってきた。
「そちらに座っている方たちが、フレイ様とバレット様ですか?」
職員は木製の長椅子に腰掛け、熱心に図鑑を読み耽るフレイとバレットに手のひらを向けた。
「ええ、そうですけど」
「ご本人がおられるのなら、身分証をお作りいたしますけど、どうしますか?」
「あっ、お願いします。フレイちゃん、バレットちゃん、こっちにおいで」
メリサは名前を呼びながら、手招きした。フレイとバレットは図鑑を籠に仕舞うと、長椅子から立ち上がり、窓口の前まで近付いてきた。
「フレイ様、バレット様、少しだけ息を止めていただけますか。すぐに終わるので」
職員はそう言うと、術式を施した両手から水を放ち、フレイとバレットの顔にかけた。水は顔に張り付いたが、一瞬で離れた。水は蠢きながら、職員が用意した身分証に一直線に向かっていく。瞬く間に身分証にフレイとバレットの顔が再現された。
フレイとバレットは驚いたらしく、目を丸くして、身分証をジッと見つめていた。
「今のは形状記憶の性質を持つ特殊な水なんですよ。つまり顔の凹凸を瞬時に記憶し、身分証の上で再現したというわけです」
職員は不思議そうにしていたフレイとバレットに説明してくれた。メリサは身分証を作った時、フレイとバレット同様に驚いたからか、職員から教えてもらって知っていた。応対した職員は別だったが、生命管理局生活課の者なら、誰でも使用可能な術式なのかもしれない。
職員は身分証の作成を終えると、フレイとバレットに渡していた。身分証には顔の他に、氏名や住所等が記載されている。出生届を提出し、身分証も作ったから、用件は済んだ。
メリサは職員に頭を下げると、フレイとバレットと連れ立って歩き、生命管理局生活課を後にした。
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