第十一話 図書館
生命管理局は『リオル・ミチェスの酒場』から徒歩5分ほどの距離にあった。2階建ての鉄筋コンクリート造であり、建物の正面に生命管理局の文字が刻印されている。生命管理局の象徴とも言える炎の輪っかがハートの周りに浮かぶデザインも描かれていた。
メリサは両開きの鉄扉をゆっくりと押した。僅かに音を立てながら、鉄扉は左右に開いていく。局内を見回したところ、以前に訪れた時とあまり変わっていないようだった。
生命管理局の場所を教えてくれたのはリオルだった。リオルは酒場を臨時休業してまで生命管理局に一緒に行ってくれようとしたが、何だか申し訳なくて、メリサは自分一人で出生届を出した日のことを鮮明に覚えていた。リオルには様々なことを教えてもらった。術式もリオルから教わったものだった。メリサにとってリオルは師匠なのだ。
メリサはさっさと用事を終わらせようと生命管理局生活課がある2階に向かおうとしたが、近くにフレイとバレットがいないことに気付き、慌てて周りを見回した。
フレイとバレットが左側の奥にある図書館に入っていくのが見えた。生命管理局の1階には図書館が併設されているのだ。様々な文献や書籍が所蔵されており、メリサも買い物のついでに何度か利用したことがあった。図書館に興味を惹かれるのは分かるけど、一言くらい言ってほしかった。急にいなくなったら、びっくりするし。まあ、別に良いんだけど。
メリサは苦笑いしながら、フレイとバレットの後を追い、図書館に足を踏み入れた。
☆☆
メリサは等間隔で並んだ書架を順番に見て回り、フレイとバレットを探した。館内を歩き回り、フレイとバレットが図鑑コーナーの前に立っているのを見つけた。ホッとため息をつき、メリサはゆっくりと近付いた。
フレイは背伸びし、一番上の段にある図鑑を取ろうとしていたが、僅かに届いていなかった。メリサはフレイの目線を辿り、目的の本を見極め、赤毛を書架の一番上の段まで伸ばした。赤毛を器用に動かし、『果物・野菜図鑑』を取ると、フレイに渡した。
「あっ、お母様、ありがとう」
フレイはお礼を言いながらも、少しだけバツの悪そうな顔をしていた。勝手に図書館に来たことを申し訳なく思ったのかもしれないが、メリサはまったく怒っていなかったし、気にしていなかった。
「ううん、お礼なんていいわよ。他に気になる本があったら、借りていいからね」
「うん、お母様」
フレイは頷くと、図鑑を両手で抱え、絵本コーナーに向かった。メリサは後ろを振り返り、バレットを見た。バレットは体の大きさを変え、図鑑を手に取っていた。後ろから覗き込んでタイトルを確認すると、『生き物図鑑』だった。
「バレットちゃん、他に気になる本があったら、借りていいよ」
「ガルルルルルルル」
バレットはコクリと頷くと、辺りを見回した。次はどのコーナーに行こうかを悩んでいるようだった。その数秒後、バレットはレシピ本コーナーに向かった。
メリサは読書スペースの椅子に腰掛け、一息ついた。足をブラブラさせて待っていると、フレイが図鑑の他に、絵本を抱えて戻ってきた。すぐ後にバレットも、図鑑以外にレシピ本を抱えて戻ってくる。
「他はもういいの? それじゃ、借りてくるから、ちょっと待っててね」
メリサは図鑑と絵本、レシピ本を受け取ると、カウンターに向かった。右の中指の眼球から身分証と以前に作成した図書館カードを取り出した。本を借りるには身分証と図書館カードの提示が必要なのだ。身分証で本人確認をし、図書館カードに借りたい書籍の名前を記入する。
メリサは図書館カードに書籍の名前を記入し、身分証と一緒に職員に提示した。
「……メリサ・アイヴァン様ですね。本人と確認できましたので、これをどうぞ」
メリサは職員から本を持ち帰るための籠を借りた。本の返却時に、籠も返さなければならない。籠が傷つかないように、借りた図鑑や絵本、レシピ本を入れ、身分証と図書館カードを右の中指の眼球に仕舞い込んだ。
「お待たせ」
メリサは読書スペースで休憩するフレイとバレットの元に駆け寄った。
「それじゃ、生命管理局生活課に行こうか」
メリサは右手で本が入った籠を持ち、フレイとバレットと一緒に図書館を出ると、石段を上がって2階に向かった。
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