第十話 酒場で食事
「その2人からはメリサと同じ魔力を感じるな。人工的に生み出したんだな」
「さすがはリオルさん。そうです。この子たちは私が生み出した可愛い娘とペットです」
メリサはリオルにフレイとバレットを紹介した。メニュー表から顔を上げたフレイとバレットはリオルに頭を下げて会釈した。すぐに視線を戻し、楽しそうにメニュー表を眺め始めた2人が可愛かった。
「……お前も元気そうじゃないか。ギャンブル依存症からは脱却したのか? まあ、その姿ではギャンブルしたくても、できないだろうがな」
リオルはメリサの赤毛に顔を近づけて囁いた。それに応えるように、赤毛は『リオルも元気そうだな。お前の言うとおり、この姿ではギャンブルしたくてもできない。ギャンブルに熱中していた頃が懐かしいよ。まあ、そのせいでこの子に迷惑をかけたから、ギャンブルをする気はないがね』と炎で小さく文字を綴った後、メリサの頭を撫でた。ちょっと照れくさかった。
「お母様、私はこれが食べたい」
フレイはメニュー表の一箇所を指差した。そこには『痺れサラダ』と書かれてあった。ジェロヴィゲル国産の野菜を使用したサラダに少量の雷を流して痺れを利かせたメニューである。
「ガルルルルル!」
バレットは『ヴィゲブランタとジェリーフォス肉炒め』を指差した。ヴィゲブランタは外側が固くて中身がブヨブヨで柔らかい野菜である。ジェリーフォスは鮮やかな銀色の毛で覆われた筋骨隆々の体であり、8本の足を持つ生き物だ。身が引き締まっていて、クセのある味が人気のお肉だった。
「私はフォルヴァレスの卵スープでお願いします」
メリサはそう言いながら、メニュー表の『フォルヴァレスの卵スープ』を指差した。 フォルヴァレスは紫色の硬い羽毛で覆われ、4枚の翼を持つ生き物だ。そんなフォルヴァレスの卵は紫色の巨大なサイズであり、1個で15人前分の卵スープが作れるほどだった。ピリリとした味わいやふわとろ加減が特徴的な卵スープである。
「痺れサラダにヴィゲブランタとジェリーフォス肉炒め、フォルヴァレスの卵スープだな。他に注文は?」
「フレイちゃんとバレットちゃんは他に何か食べたい料理はある?」
「えっと、ジェリーフォス揚げが食べたい」
「ガルルルルル!」
フレイとバレットはどっちもメニュー表の中から『ジェリーフォス揚げ』を指差していた。ジェリーフォスを油で揚げた料理である。フレイがメニュー表を閉じたのを確認すると、リオルは頷いた。
「すぐに作って持ってくるから、ちょっと待っててくれ」
リオルはそう言うと、奥に向かって歩き出し、厨房に入っていった。
☆☆
「お母様、あれは何?」
料理が運ばれてくるのを待っていると、フレイがいきなり壁を指差した。メリサはフレイが指差した方向に目線を向けた。そこにはジェロヴィゲル商業組合が発行した証明書が貼り付けてあった。
「あれはジェロヴィゲル商業組合に加盟したことを証明するものよ。商業組合に加盟しないと酒場は経営できないからね」
「へぇー、そうなんだ」
フレイは頷くと、チラリと厨房に視線を向けた。ちょうどリオルが料理を運んでくるところだった。リオルはテーブルに、『痺れサラダ』や『ヴィゲブランタとジェリーフォス肉炒め』、『フォルヴァレスの卵スープ』、『ジェリーフォス揚げ』を次々に並べていった。
「ごゆっくりどうぞ」
リオルは伝票をテーブルに置くと、別の席の注文を取りに行った。この酒場はリオル含めて従業員は3人だが、担当は決まっていない。その時に応じて厨房やホールを担当するのだ。
『いただきます』
メリサたちは手を合わせると、料理を食べ始めた。メリサは『フォルヴァレスの卵スープ』のピリリとした味わいを堪能しながら、チラリとフレイとバレットを見た。2人とも美味しそうにバクバクと料理を食べていて、メリサはホッコリした気持ちになった。
視線を料理に戻すと、メリサはふわとろ卵を口に頬張った。ふわとろ卵が濃厚なスープとよく絡んで旨味が口内に広がった。あっという間に食べ終わった。
メリサは赤毛とジャンケンで遊びながら、フレイとバレットが食べ終わるのを待った。2人ともすぐに食べ終えた。
メリサは伝票を手に取り、フレイとバレットに先に外で待っているように言うと、会計に向かった。
「今日は私の家に泊まっていけ。この国からメリサの家まではそこそこ距離があるからな。それにあの2人に観光もさせてあげたいだろ?」
「いいんですか? ありがとうございます!」
メリサはリオルにお礼を言うと、右の人差し指の眼球からお金を取り出し、1000ジェロニランを支払った。
リオルに頭を下げると、メリサは木製の扉を開け、外で待つフレイとバレットに駆け寄った。
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