恋人未満
「「「「「王様だーれだ!」」」」」
高校卒業後に仲良しグループで集まった時、話の流れで王様ゲームをやることになった。私を含めてメンバーは五人で、恋バナ好きのアイカ、心配性なイチカ、悪戯好きのウミ、しっかり者のエリ、私だ。私の番号は三番。イチカかエリが王様なら、変な命令をしなさそうだからありがたい。
「やった! ふふ、何番にしようかなあ?」
王様はアイカらしい。私たちの顔を見ながらニヤついている。大丈夫……三番にならなければ良いだけ。四分の一だから大丈夫――。
「じゃあ……三番は恋バナしてください!」
見事なまでのフラグ回収だった。
「好きな人とか、いないけど……」
こうなる未来が見えたから避けたかったのに。そもそも高校ではほぼずっと一緒にいたから、私たち五人に相手がいないことくらい分かっているはずだけど。それでもどうにかして聞きたいらしく、アイカは食い下がった。
「じゃあ初恋!」
「ないかなあ」
「告白されたこととか! ない!?」
「……ある」
「えっ!? ほんと!? 聞きたい!」
アイカだけでなく、他の三人も乗り気になってしまった。話すしかない雰囲気にされた。
これは小学生の時の話なんだけど、私には仲の良い男の子がいたの。あ、仲が良いっていっても、一緒にゲームしたり休み時間に一緒に遊んだりしたってだけだよ? そんな目を輝かせないでよ、アイカ……。他にエピソードはないか? ああ、委員会は一緒だったな、図書委員会。委員会は全員参加でさ、本が好きな私は真っ先に立候補したわけよ。実際は楽だからっていうのもあるけど。小学校といえばクラブと委員会だよねー。懐かしー。クラブの希望出したところが潰れて別のクラブに入らされたなあ。って話が逸れたね。
その男の子、まー仮にA君と言おうか。別にイニシャルとかじゃないからね。そこ、ニヤニヤしない。こんなところ、どうでも良いでしょ。話を戻すと……彼とは趣味も合うし、クラスも委員会も一緒だし、よく一緒に行動してたんだよね。帰りも校門まで一緒に行ったりさ。他の子といる時も楽しいんだけど……なんだろう、どうでもいい話をして盛り上がれるっていうのかな。昨日見た動画の話、ゲームの話、そういうことを話せて気が楽だったんだよねえ。
え、展開が遅い? 仕方がないじゃん、もう六年も前だよ? あーはいはい告白ね。それは小学校六年生の時、最後の委員会が終わってからだったなあ。委員会をやってた教室が三階だっけ? まあ上の階にあってさ、彼と夕日で赤く染まった階段を下るの。で、彼はふと振り向いてさ、「付き合う?」なんて軽く、本当に軽く聞いたの。冗談なんじゃないかって思うくらいの声色で。
どうなったか? ……私は気がついていないフリをしたの。それが私が受けた最初で、十八年間生きていて唯一された告白。
「え、それで終わり?」
「受ければ良いのに」
「えーハッピーエンドじゃない……」
ウミ、エリ、アイカが言った。アイカには「今フリーな時点でそうなるでしょ」と言い返した。
「確かに……。でもどうしてそんなことをしたの?」
「多分、怖かったの」
「……怖い気持ち、分かる気がする。関係性が変わるってことだから」
イチカが呟く。
「うん、私は怖かった。関係が変わることが。何しろ、当時は小学生だったから、彼氏になるってことがどんなことなのかなんて分からなかった。……いや、今でも分かってはないけど」
「重く考えすぎじゃない?」
「私にとってはそこそこ重大なの! ……だから受け入れることができなかった。でも、振ったことで関係が変わるのも嫌だ。そんな自分勝手な気持ちだった」
そんな気持ちは彼も察してくれたのだろう、それ以降、その話題を出されたことはなかった。
「聞いてもいい? 彼とはその後どうなったの?」
エリは控え目に、少し気まずそうに聞いた。過ぎた話をそんなに重苦しくしたくなかったから、軽く答える。
「どうもしないよ。彼は別の中学に行ったから。別の学校に行くって聞いたの卒業式の後、謝恩会だよ? しかも二次会。中学に入ってから偶然一度会ったけど、あんまり話さなかったし」
「えーつまんないのー」
つまらなさそうなアイカを横目にエリが「じゃあ次行こうか! 王様ゲームで楽しい気分になろう!」と言い出した。
「まだやるの? 一回やれば十分じゃない……?」
乗り気でないのは私とイチカだけだったため、多数決で続行することになった。まあ何度も当たることはないだろう……。
「行くよー! せーの!」
「「「「「王様だーれだ!」」」」」
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