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もう一度、魔女の母に会いたくて。  作者: ジデン タツバ
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未来まで続く魔法

「おはよ……」


森の魔女が住む家。

少し前までは、未熟な魔女ひとりが生活していたが、最近元の主が戻ってきたようだ。


「おはよう、よく寝れたかしら?」

「うん、お母さん……」


お母さん、と慕うその後ろ姿は紛うことなき自分を魔女として育てた母そのものだった。

以前のような幻覚ではなく、現実としてそこにあった。

椅子には座らず、母の背に抱きつく。


「あら……危ないわよ?」

「……もうちょっとだけ……」


そういうと魔女は諦めたように小さくため息をつく。

人形なんかよりもずっとずっと暖かい背中、確かに脈打つ鼓動が聞こえ、笑みが漏れる。


しばらくして離れ、席についた。

母が2人分の朝ごはんを置き、目の前に座る。


「そんなに笑って……楽しい夢でも見たの?」


少女は首を振る。


「お母さんと一緒にいれて、嬉しい」


魔女は驚いたような顔をして、微笑んだ。そして少し身を乗り出し、手を伸ばして、少女の頭を撫でた。


「…!」


「見えなかっただろうけど、私はずっと見ていたわ? よく、頑張ったわね? ……あら、泣くことないじゃない……頑張ったのは事実なのよ?」


嬉し涙がこぼれていく。

久しぶりの朝食は少し涙の味と、二度と味わえないと思った母の味がした。


その後は母の魔術を追いかけていた。

怪しげな大釜に変なものをたくさん入れ、ぐるぐるとかき混ぜる。

疑問は母が全て教えてくれた。


「魔術に興味があるの?」


と母は聞いた。

『お母さんみたいな魔女になりたい』と言うと、母は整頓された本棚本から何冊かを少女に手渡した。


「これは私が見習いの時に使った本よ。この本の内容が理解できたら、本格的な魔術を教えてあげる。分からなかったら私に聞いて?」


本を受け取り、力強く返事をする。


そこからは本に夢中になった。

内容こそ1週間で理解出来たものの、最後の魔術の実践だけが上手くいかない。

外に出て唸っていると、亡霊の魔女と会った。

以前のような今にも土に帰りそうな肉体ではなく、彼女もまた綺麗な女性として、また偉大な先輩として、少女に接していた。


「魔術の練習?」


「はい。だけどあまり上手く出来なくて……」


「……多分、魔法陣が違うのね。それにこういう魔術は少しコツがいるのよ」


間違えている箇所、ある程度のコツを丁寧に教えられ、『やってみて』と言われるがままに実践する。

周囲の草花が成長するのを見て、亡霊の魔女はにっこりと笑った。


「それが魔法よ。手の先から魔力を放つ感じ、覚えておくといいわ」


「うん! ありがとう!」


「感心するわね」


「あ、お母さん」


後ろから2人を眺めていたらしい。


「ふふふ……ねえ?ひとつ、みんなで未来に残る魔法を試しましょ?」


「いいじゃない」


2人の会話についていけない。


「『万年樹(まんねんじゅ)』の魔法よ。いい場所を見つけてるの、そこでやりましょっか」


母に手を引かれて森の中腹辺りまで戻る。

道を逸れて突き当たりを進むと、少し広い場所に出た。

その中心には既に幼木が植えてあった。


「この幼木に私たちの魔力を流すのよ。さ、こうやって手を置いて……」


母と亡霊の魔女が木に手を触れ、目を閉じる。

それを見て、すぐに同じように真似をする。

魔力が吸われていく感覚に沿って、自分の魔力を流す。


「そろそろいいわよ、お疲れさま」


母にそっと木から離された。


「……死にかけの木だったのね」


「ええ。だから私たちが手助けしたのよ。いずれこの木は、白い葉を茂らせる。その葉に満たされた魔力が、私たち魔女や、この周りの地面に影響を与えていくのよ」


「……楽しみだわ、ねえ?リーべ?」


母の言葉を聞き、再度木を見上げる。

未来へ枝を伸ばすその木に、自分を重ねる。


「……あなたも頑張るのよ、未来の魔女さん?」


「もちろん! お母さんみたいになれるように頑張るから!」


「いい返事ね。さ、帰りましょ。今日はパンケーキでも焼こうかしら」


森に住む3人の魔女の笑い声。

幼い魔女は、そんな小さな幸せを噛み締めるように笑っていた。

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