私の全て、貴女の全て。
森の魔女が死んだ。
その知らせを聞いたのは既に彼女が死んでから1週間が経った時だった。
どおりで森が騒がしかった訳だ、と当時は納得半分、他の者と同じように、しっかりと涙を流した。
何も出来ないのが悔しくて、ではない。魔女として同い年の彼女を失ったのが悲しくて、大粒の涙を流していた。
久しく泣いた後の顔はそれはもう酷い表情だった。
私に出来ることを考えた。それが"ラブ・トリガー"を完成させる"事だった。
元は禁術、死者を1人だけ生き返らせるもの。代償は4人分の血肉。
禁術カテゴリー故に代償にテコ入れはあまりできない。ならせめて、と……魔術式を書き換える。
結果から言えば、想像以上に成功した。
代償も、命は変えられなかったが、1人の犠牲で済む。
……私は、あの魔女のためなら喜んで身体を捧げる──
*
「良いわ、泣きなさい?──あなたも、ね?」
力尽きて横たわる私に語りかける声があった。
その顔は以前と同じように端麗で、見る者を例外なく魅了するような。
実に懐かしい顔だった。
"老い"という形で贖罪をした私とは違う、あの時のままの綺麗な顔で、彼女がそこにいる。
彼女の声に釣られ、手をのばす。
貴女は私の手を取り、そのまま私を抱きしめた。
私の体を折らないように、しかしそれでも強く。
その時、初めて自分が泣いていることに気付いた。
大粒の涙が、暖かい雫が、目元から頬にかけて流れていく。喉からは絞り出すような、呻きにも似た声を上げる。頭の中には今までの記憶がフラッシュバックする。
初めて会った日、共に魔術を学んだ日、同じ人を亡くした日、共に笑って、泣いて、戦ってきた日々。
冷たかった身体に温もりが戻ってくる。重かった身体が若かりし日々のように軽くなっていく。
"あいたかった"
その一言をしゃくりながら伝えた。
彼女は笑いながら、私と同じ言葉を言った。
最後に、彼女にしか教えてない私の名を呼んで。
私は彼女の身体を強く抱きしめる。
今だけでいい。今だけ、貴女に甘えたい。
今まで会えなかった分の、想いを、悲しみを貴女に伝えたい。寂しかった。辛かった。泣きたかった。死にたかった。貴女に会うために色んな方法を試した。でもそれは全て自分の身を滅ぼすだけで、解決になんてならなかった。私の涙はもう偽物じゃない。私の気持ちは作り物じゃない。
小さな頃、貴女に叩き込まれた教えは、今まで私を動かしていた。ありがとう。貴女が親友で、貴女が私のそばにいてくれて、私と一緒にいてくれて、私を叱ってくれて、私を見てくれて、私は本当に救われたの。
私が私で居られたのは、あなたのおかげなの。
次は……私が、貴女を支えれるような人になりたい。
あの魔女は将来きっとすごい人になる。
……その、手伝いをさせて? 私も、未来を見たいから。
彼女は笑って、もちろん、と答えた。