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 ユウナがシンをうっかり煽ったせいで、カップル成立大作戦を続けなくてはならなくなってしまった。


『くうっ……! あたしのバカ!』


 いくら後悔しても、手遅れである。   


 それに、ここで引き下がれば、シンに絶対バカにされる。「あんな強気なご発言なされていましたが、口だけだったようですね」と笑われるに違いないのだ。


『ぐぬぬ……。こじらせカップルを素直にさせる方法ねえ……。』


 どうにか頭をひねり、宙返りをして、深く深く考えて、とある言い伝えを思い出す。


『そうだ、神父職だけが使える祝いの歌を歌えば、二人のこじらせも治るのでは?』


 魔法にはいくつか種類があるが、特定の種族や職業しか使えない魔法もある。


 祝いの歌は、神父職にしか使えぬ魔法だ。


 その効力は、奇跡。


 神がかりな奇跡を起こすことができるのだ。


 我ながらいい提案だと思ったが、シンの顔は曇る。


「私は、……歌が苦手なんだ。昔から、あれだけはできない」

『へえ、神父なのに? 魔力不足なの?』

「……そうではないんだがな。それに、あの歌は世間で言うほどの効力はない。高名な神父なら絶大な力を発揮するが、それ以外の歌は気分が落ち着く程度だ」

『うーん、だめかあ……。なら……。うん、そうだわっ!』


 ミツバチに肉をプレゼントしても意味はない。


 ドラゴンに花の蜜をプレゼントしても意味はない。


 ターゲットの好みを詳しく知らなくては、的はずれな作戦を実行してしまう。


『まずは二人のことを調査してきましょう!』

「そうだな。それがいいかもしれない。お願いできるか?」

『もちのろん!』


 そして一日後。


 だめ男を脅かしたあのベンチにて、ユウナは自信満々に報告していた。


『えへん。あたしはね、幽霊の体を利用して、二人の素性を調査してきたのよ!』

「ほう、なるほど。まずは敵を知ることから始めたのか」

『そうそう! まずは、アレキバさんから教えてあげる』


 部下からも愛され、職人からも愛されているのは本当だった。

 

 一方で、とある悪い噂も流れている。


『それもズ・バ・リっ!』

「賄賂しているって話だろ?」

『んな!? なぜ知っている!!』

「弱みでも握ればゆすれると思ってな。金持ちの身辺調査は積極的にしている」

『あなた、本当に神父なの?』


 悪い噂とは、競合他社を秘密裏に潰しているといった噂であった。


 アレキバの商店トルーパー商店は、国内の良質な原材料を仕入れ、お抱え職人に加工してもらい販売する、小さな商店であった。


 トルーパー商店が国一番の商店になったのは、過酷な砂漠を越え、国外の材料を仕入れるようになってからだ。


 急斜面の山脈にて産出された大きなルビーを、職人が丁寧に丁寧に磨きあげ、美しく加工したネックレス。


 雪国を支配するマンモスの毛皮を生地に、可愛くつくった防寒ワンピース。

 

 灼熱の火山にだけ生える花から抽出された、男性をとりこにする香水。


 物珍しい材料から作り上げる卓越した加工品に、国内の民のみならず、国外の貴族からも注目され、売上が何十倍も跳ね上がったのだ。


 トルーパー商店の想定外の跳ね上がりに、他の商店も後に続こうとした。


 だが。


 どの商店も、砂漠を越えられなかった。


 この前も、砂漠を通って貿易他商店が、死者こそ出さなかったが、壊滅してしまったのだ。


 噂はこう伝えた。


 アレキバが裏で手を引き、他商店を壊滅させているのではないか、と。


『あんな人の良さそうな見た目なのに、他の商店の人たちを危ない目に遭わせるなんてねえ。ひどい話よ』


 どうだ、自分はこんなにも情報を手に入れたぞと胸を張るユウナだが、シンが冷たい水をさす。


「そもそも砂漠超えは難しい。その商店の失敗の理由までは知らないが、どうせ適当な装備で砂漠に突入して、自滅したのがオチだ」

『……そ、そう……』


 ちょっと落ち込んでしまったものの

、ふわふわに励まされ、ユウナはもう一つの報告をする。


『な、なら、これはどうだ!! エリーシャさんの噂なんだけど、実は彼女、アレキバさんの前に婚約者がいたんだって!』


 ほんの数年前の話だ。


 相手は男性ではあるが容姿端麗で頭も良い、完璧な人だったらしい。

 

 しかし、色々あって婚約破棄されてしまった。


『噂では、元婚約者はエリーシャさんに惚れたままだとか!』


 ユウナはとっておき情報を誇らしげに語る。


『元婚約者はアレキバさんの知り合いだから、アレキバさんは元婚約者に気をつかって、アタックできないって話よ!』

「それはないな」


 今度もバッサリ切り捨てられてしまった。


 さすがのユウナも、ムッとしてしまった。


『なんでそう言い切れるのよ』

「……説明はできないが、違う」


 ユウナは心が読めるので、シンが隠そうとしていた事実が素早く伝わった。


『……え、ええ!! エリーシャさんの元婚約者って、シンなの!!??』

「……人の心を勝手に読むな」

『そ、それで!? 好きなの!? エリーシャさんのこと!!』

「全然」

『全然!?』

「婚約破棄したのも、私からだからな」

『そ、そう……』


 ユウナはこそっと尋ねる。


『ちなみに、どうして断ったの?』

「……」


 シンは目をそらす。


「色々あったんだ」

『……』


 何か隠しているな、と彼女は悟った。


 けれど、


『……まあ、いいわ。それよりも、作戦をつめましょうか!』


 シンは目を瞬かせる。


「なんだ、心を読まないのか」

『カップルをくっつけるのが今回の作戦でしょう? エリーシャさんもあんたのことを引きずってなさそうだし、知らなくてもいいと思ったの』

「……幽霊のくせに、常識はあるんだな」

『どこぞの守銭奴人の弱み握り神父と比べると、常識はあるわよ』

「……」


 シンは、肩をすくめた。


「……そういえば、君の名前を聞いていなかったな。なんというんだ」

『そういえば、あたしの方は自己紹介してなかったわね。ユウナよ、ユウナ』


 実のところ、ユウナとふわふわとの会話で、彼女の名前は知っていた。


 けれど、直接聞くのが、礼儀だと思ったのだ。


『それで、こっちがふわふわ』

『我はふわふわである。お前のことは嫌いである』

「では、ユウナ。ふわふわ。よろしく頼むぞ」

『な、何よ今更……。人に首輪つけておいて……』


 シンの照れも、ユウナはちょっとビビっただけで終わった。

  

 

  

 


 



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