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売れっ子商人の屋敷なため、警備の人はそれなりにいる。


 ただ、幽霊なユウナは、何十人もの警備員がいても関係ない。


 ふわふわと一緒に、カップルとやらを探す。


『それにしても、あたしたち、変な奴に捕まっちゃったわねえ……』


 ユウナはふう、とため息をつく。


 ちょっと前までは楽しくカップルの仲を引き裂いていたのに、今では神父に手綱を(物理的に)握られ、カップル成立のために奮闘する始末。


 ふわふわはとても嫌そうにふわふわ浮く。


『我はあいつ嫌いなのである。今のうちに逃げるのが得策なのである』

『それもそうねえ。よし! 逃げるぞ!』


 だがしかし。


 ユウナの脳内に、あの神父の声が響いてきたのだ。


――聞こえているぞ。


『ひい! あいつの声がする!!』


――鎖を伝って、お前の声が届くんだ。ちなみに、鎖を引っ張れば私のすぐそばに引き寄せられる。逃げても無駄だ。


『うぐぐ……。あんた、性格悪いって言われない?』


――よく言われる。

 

 ちょっとした企みの芽がつまれ、ユウナはがくりと肩を落とす。


『えーっと、カップルカップル。名前は……なんていったかしら』

『人間の名前なんて、我は覚えていないのである。ユウナは別である。ユウナは友達であるからな!』

『ふわふわはいい子ね。あたしも、ふわふわの名前はちゃんと覚えているわよ!』


――覚えやすい名前だからな。


『さらっと会話に参加しないで』


――ちなみに、男性の方はアレキバさん。女性の方はエリーシャさんだ。


『どうも。おーい、アレキバさーん! エリーシャさーん! どちらにいらっしゃいますかあー』


 客室をのぞき、玄関を確認し、おそるおそる寝室をチェックする。


『いないわねえ。どこにいるのかしら』

 

 探していると、キッチンにいた人たちが、たくさんの料理をもってどこかへ向かっていった。


『ついていけば、二人に会えそうね』


 予想はぴたりとあたっていた。


 キレイに整えられたお庭に、男女二人がテーブルごしに見合っていた。


 男性側は栗色の髪の毛に、深い茶色の瞳の青年であった。


 柔和な顔だちで、微笑めば周囲の人達は彼に好意を抱くだろう。


 しかし、せっかくの優しげな顔は、今やこわばってしまっている。


 女性の方は、赤く長い髪の絵に、明るい茶色の瞳だ。


 公爵家のお嬢様と聞いていたが、魔法剣士だった父親の血を色濃く継いでいるのか、活発そうな女性であった。


 けれど今の彼女の表情は暗く、憂鬱そうであった。


 テーブルには、チーズがのったビスケットやサンドイッチ、クッキーやマカロンなど、片手で食べられる料理がふんだんに並んでいた。


 こんなにも美味しそうな食事が並んでいるのに、男女の二人は料理に一切手をつけず、何なら口さえ開かず、重い空気が漂っていた。


『うーん、こりゃ本当に仲が悪いみたいねえ』


 石像のように固まるこの二人を、仲良しカップルにしなければならないのか。


 糸口を探れと言われたが、ここまでがっちり不仲だと、糸口一つも見つからない。


 だが、このままでは彼女はシンにどやされ、解放してもらえない。


 二人が仲良くなれる取っ掛かりを十個見つけろと云われているのだ。せめて三個ほどみつけたい。


『こうなったら、幽霊必殺奥義! 人の心を読む力を発揮しましょう!』


 お互いがお互いを嫌っている理由さえ分かれば、仲良くさせる取っ掛かりを作れる。


 ……生理的に無理、が理由だと、どうしようもないが! 


 一抹の不安を抱え、彼女は二人の心を読むことにした。


 まずは、アレキバ。


 こわばった表情で、彼は眼の前のエリーシャを見つめていた。  


 彼は、こう思っていた。

 

(ああ、落ち込んでいるエリーシャさんも可愛く見え……いやだめだ! 話の一つできずして、何が商人だ! だ、だが、僕は何を離せば良いんだ……。取引先だったらあんなにペラペラ喋れるのに、彼女を前にすると緊張して何も言えない!!)


『……』


 続いて、エリーシャ。


 彼女は、憂鬱そうにアレキバを見つめて、こう思っていた。


(アレキバ様、あまり楽しくなさそう。だけど、顔が整っているから、楽しくなさそうでもかっこいい! って、見惚れている場合ではないわ! まずは何かご飯を食べて、話をしなくちゃ。けど、何を食べれば、アレキバ様との会話が弾むかしら。うう、悩む。どうすれば……!)


『……』


 ユウナは、叫んだ。


『いや両片思いかい!!!!!』 


 


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