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ふわふわはユウナを一生懸命応援してくれる。
『頑張るのである! 負けるなである!!』
『おりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!!!』
ユウナは努力していた。
首輪を引っ張る。
鎖に噛みつく。
シンの体を何度もすり抜けてびっくりさせる。
しかし、どれもうまくいかず。
最初は楽しんでいたシンだが、段々とめんどくさくなってきた。
「とっとと諦めろ」
『ぐぬぬ……! あんたが鎖さえ手放せば!!』
「ほれ」
ぽい、と鎖を手放した。
地面に鎖が落ちると、なんとなんと、鎖が消えて亡くなったではないか。
『へ? き、消えた? ……よっしゃ今だ!』
飛んでいこうとするユウナだったが。
『がふふぇるっ!』
「なんだその悲鳴」
首輪が引っ張られ、逃げられなかったのだ。
『な、なぜ……! 鎖は消えたのに……!』
ふわふわがこそっと教える。
『人間の目では鎖が消えているようにみえるが、ユウナを縛る魔力は未だ消えていないのである』
「そこのホコリはよくわかっているな」
『お前に褒められても、全くうれしくないのである。ユウナをいじめる奴は嫌いなのである』
「なんとでもいえ。これも我が主君、神のご神託を達成させるため……」
ユウナはふん、と鼻を鳴らす。
『神様泣かせたくせに』
シンは聞こえないふりをした。
「見えてきたな。あそこに、我らが神がくっつけたいカップルがいる」
『そもそも、神様の願いがカップルをくっつけたいって事自体がちょっとよくわからないわよね』
さすがは恋愛至上主義の国教か。
なんて思いながらユウナは対象のカップルがいる場所を見上げる。
『え……! す、すごっ!! 立派なお屋敷!!』
庶民が三十人は暮らせそうな、でかでか屋敷が建っていた。
よっぽどな貴族様の家か、相当稼ぎの良い商人さんのお屋敷に違いない。
『っていうか、カップルはこの屋敷に住んでいるの?』
ならば、シンがあれこれしなくても、カップルは自然と結婚するのではないか。
「いや、今日は顔合わせで二人一緒にいるだけだ。調査によると、同棲までは程遠い」
シンは端的に説明しはじめた。
ターゲットの男の名前は、アレキバ・セイ・トルーバー。
海外から材料を輸入、加工し輸出する商売を得意としている。
職人からも好かれ、部下からの信頼も厚い。
女の名前は、エリーシャ・ファーウェル。
母親が公爵、父親は魔法剣士として名をあげた男である。エリーシャさん自身も気立てがよく頭もいい。社交界の評判も上々である。
そんな二人は、なんとなんと将来結婚する仲なのだ。
『へ? なら本当にあんたが頑張る必要ないじゃない』
「そううまくいけば、神も泣かない」
『泣かせたのはあなただけどね……。つまり、何かしら揉めているってことね。なら、よくあるあれかしら。身分違いの恋だから周囲から反対されている、とか?』
「いや、周囲はノリノリだ。我が国の民は身分違いの恋が大好物だからな」
『そんなんで良いのかしら貴族社会』
「ただ、二人とも、結婚に乗り気ではないんだ」
『ははあ。……なるほど』
どれだけ周囲から支持されようとも、二人の気持ちが追いつかないと意味がない。
『それさ、シンが頑張ってもくっつかないのでは? 好き嫌いは誰かが介入してどうにかなる問題ではないわよ』
「そこでお前の役目だ。幽霊の力で偵察をし、嫌いを好きに反転させるきっかけを見つけてほしい」
『いやいやいやいやいや』
「では、まずはカップルの現在の関係性を探り、カップル成立できそうな取っ掛かりを十個見つけてきてほしい」
『多くない!? 厳しくない!?』
「いかないと、鎖を思いっきり引っ張るが?」
『暴力反対!! 幽霊差別!!』
どれだけ文句を言っても、主導権も鎖もあちらが持っている。
ユウナは渋々屋敷に侵入するはめになったのであった。