表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/34

1

 神からアレキバ・エリーシャのカップルの仲を取り持てと言われたとき、シンは困惑した。


 世間的にみれば、シンはエリーシャを捨てた身である。

 

 アレキバとも、話したことはあるが、そこまで仲が良くなかった。


 下手に接触しても、二人に警戒されてしまいかねない。


 最悪、私の出現のせいで、二人の仲がこじれる可能性すらあった。


 悩んで教会の周囲を歩いていたとき、手入れのされていない生け垣に、彼女が潜んでいた。


 明らかに実体のない、幽霊であった。


 神父たるもの、いや、一般市民たるもの、怪しいものには近寄りたくない。


 普段の私なら見て見ぬふりをするか、王国の騎士に報告する。


 だが、そのときの心は、神からの嫌がらせに参っていた。


 ふと、こう思ったのだ。


 幽霊ならば、アレキバたちの調査も容易にできるのではないかと。


 半ばやけになって、いたずらにふける彼女に声をかけたのだ。


 あのときのように、ユウナは生け垣に隠れていた。


「ユウナ、やっと見つけた」


 出会いの場所にいてくれたのが嬉しくて近寄ろうとするが、


『来ないでっ!』


 ユウナの制止に、思わず足を止める。


『近寄ったら、あんたもドラゴンの呪いにかかっちゃう』

「そんなのはどうでもいい!」

『どうでもよくない!』


 ユウナは、今度は小さな声でいう。


『……シン。あんたには、やってもらいたいことがある。だから、私に近づいてはいけないの』


 必死にユウナは話す。


『あたしの両親に、こう頼んで。アレキバさんかリバイさんから血清を作ってほしい、って』

「血清……?」

『両親にそう言えばわかる。それで、血清をドラゴンの呪いにかかった人たちに配ってほしい。そしたら症状が軽くなるはず』


 彼女はシンには良くわからない説明をする。


 いわく、アレキバたちはドラゴンの呪いから解き放たれている。


 そのとき、体の中に抗体ができる。


 血清をつくり、他の病人に投与すれば、呪いへの抗体を受け継ぐことができる。


 全員が全員治療できる訳ではないが、呪いに対抗するには、この方法しかない、と。


 だが、シンには彼女の苦しそうな吐息しか耳に入らなかった。


「分かった。君の両親に伝えておこう。それで、君が治る方法は? どうすればいい」

『……』


 彼女は、黙った。


「ユウナ。話してくれ。出来ることなら何でもする」

『……シン、ありがとう。けど、無理なの』


 ユウナらしくもなく、声は弱々しい。


『あたしは、もう手遅れなの。だから気にしないで、早く他の患者さんたちを助けてあげて』

「……」


 動けなかった。


 このままいなくなれば、彼女はいなくなってしまうような、そんな気がしてならなかった。


 けれど、同時に彼は理解していた。


 彼女は、もう助からない。


 ならば、シンは彼女にしてやることは、一つしか無い。


 ふわふわたちが私の周りに集まる。


『シン。早く行くのである。ユウナの意志を、尊重するのである』 

「……」

『お願いである』

「……くそっ」


 何が神父だ。


 何が愛を司る宗教だ。


 一人の命も守れないではないか。


「そこで待っていてくれ、ユウナ。絶対に、君も助けてやる」


 すぐにユウナの両親の下へと行こうと駆け出す。


 数歩進んだとき、彼の耳元で、声が聞こえた。


『ありがとう』


 ハッとして、踵を返す。


 ふわふわの制止を聞かず、シンは彼女のもとへと走った。


 だが、


 彼女は、どこにもいなかった。


 ……どこにも、いなくなっていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ