5
アレキバの記憶とともに、エリーシャの記憶も流れてくる。
彼女の父親は魔法騎士として著名な人物だった。
仕事で名をあげる父親を彼女は誇らしく思っていた。
父親のことは大好きだった。
けれど、母親と遊ぶ同世代の子供を見ると、やはりさみしくなってしまう。
そんなある日、珍しく病弱な母が遊んでくれた。
エリーシャは嬉しくて嬉しくて、前の晩は眠れなかった。
何をして遊ぼうか!
木登りもいいな。水遊びもいいな。ごっこ遊びにしようかな。
眠る寸前、彼女はようやく決める。
そうだ、砂遊びをしよう。
エリーシャの脳裏には、他の子供が母親と砂遊びをするシーンが浮かんだ。
砂遊びをするタイプではないが、できることなら、あの親子のように遊びたい。
そうだ、そうしよう。
明日の予定を決めた彼女は、わくわくしながら眠りについた。
翌日、母親に砂遊びをしたいとお願いすると、意外そうな顔をしながらも「わかったわ」と笑ってくれた。
エリーシャは母親の手を引いて、公園に案内する。
公園にはそれなりに子供たちが遊んでいた。彼らに見せつけるように、エリーシャはわざと大きな声で母親と遊ぶ。
このきれいな人が、私のお母様なのよ。
どう? すごいでしょ!
母親は「砂遊びなんて久しぶり」と笑いながらも、真剣にお城を作る。
数分後、出来上がったのは、とてもとても立派なお城だった。
「わあ、すごい!」
「ふふっ、熱中しちゃった。こういった細かい作業は不得意だけど、これはこれで楽しいわね」
その日の遊びはそれで終わってしまった。疲れから体調が悪くなり、母親は帰ってしまった。
一人になった砂場で、彼女はお城を丹念にお手入れしていた。
明日になったら、お城は崩れてしまうだろう。
だけど、今日だけは、大切にしたい。
母親と遊んだ証なのだから。
なのに。
小さな男の子が、彼女の証を壊してしまったのだ。
悲しくて、くやしくて。
男の子は謝罪のためにプレゼントしてきたが、どう見てもそこらへんで買ってきた物だった。
そんなもので、あのお城を壊された悲しさは埋まらない。
しょんぼりする彼女に、少年は、おそるおそるといった様子で、プレゼントを渡してきた。
またどこぞの高級なものかと思って、怒鳴ろうとおもった。
けれど。
今回のプレゼントは、違った。
「これ、……僕が作ったんだ」
不格好なアクセサリーだった。
だけど、
彼が作ったアクセサリーは、温かな魔力を感じた。
「……」
エリーシャは、ネックレスをぎゅっと握りしめる。
「……いいよ。許してあげる」
「よかった……」
少年は嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔が、彼女の胸をきゅん、とつかんだ。
アレキバをはじめて見た時も、少年の姿が目に浮かんだ。
だからこそ、彼女はアレキバを好きになったのだ。
アレキバも、同じだった。
そして。
二人の思い出は、今、絡み合った。
エリーシャは、照れたように手をもじもじさせる。
「まさか、あのときの少年が、アレキバ様でしたとは。あのときは偉そうにしてごめんなさい」
「いいんですよ。それよりも、プレゼントをずっと持ってくれていたのがすごく嬉しい」
「だって……。大切なものだったから」
「……エリーシャさん」
アレキバはためらいもなく跪いた。
「その大切なものに、これを入れてもらえませんか?」
彼が差し出したのは、
美しいダイヤがはめられた、銀色のリング。
「ダイヤの裏に、君と僕の名前を掘ってみたんだ。受け取ってもらえると、嬉しい」
「……」
エリーシャは、微笑んだ。
「ええ、よろこんで」
息をのんで見守っていた周囲の人達が、わーわーと歓声を上げる。
これで、ようやく目的が完遂したのだ。
『よかったよかった!』
喜ぶユウナ。だが、作戦成功を祝う前に、とある騒動が起きた。
まず、二人を暖かく見守っていた猫、ホワイトが毛を逆立てる。
どうしたのだろうかと思っていると、
「ふん、可愛い嫁さんを迎えて万々歳なようなんだぞ。その上、俺らの商売も邪魔できて、トルーパー商店はうなぎのぼりっわけか?」
幸せムードに包まれていた会場に、憎しみがこもった声が響いた。