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壊れたお城を見つめていた女の子は、ほろほろと涙を流す。
「お城……。お母さんと、作ったのに。作ったのに!」
「ご、ごめん! 僕が直す! 直すから!」
「触らないで!」
ばしっ、と叩かれてしまった。
「うっ、うわーん!」
わんわんと泣いて、女の子は走って行ってしまった。
「……あ、ちょっと……」
伸ばした手は、遠くなった女の子の背中には届かなかった。
小さなアレキバは落ち込んだ。家に帰っても、ご飯を食べても、気分は晴れなかった。
せめて商店に顔を出せば気分転換になるのに、今日は許されなかった。
失意の中、小さなアレキバさんは眠りについた。
翌日、アレキバはあの公園を訪れた。
あのときの女の子がいれば謝ろう、と思っていたのだ。
言葉だけでは許してくれないかもしれない。アレキバは小さいながらも一生懸命考えて、高値で取引されている貝殻を持っていることにした。
ビクビクしながら公園をのぞきこむ。
女の子は今日も公園に遊びに来ていた。
今度は鉄棒で逆上がりをしている。
くるん、と綺麗に回転し、地面に着地する。
アレキバはまだ逆立ちなんてできなかった。
なんなら、前回りでさえも上手にはできない。
すごいなあ、と子供ながらに尊敬の心を抱く。
アレキバはおそるおそる彼女に話しかける。
「あのう、ちょっといいかな」
女の子はアレキバをみると、キッと睨みつける。
「私のお城を壊した人!」
「ご、ごめん! 本当にごめん! その、これ! プレゼント! あげる!」
貝殻を差し出すも、彼女の機嫌は直らない。
「嫌よ。私、怒っているんだからね!」
彼女は肩を怒らせて、公園からいなくなってしまった。
「……そんな……」
アレキバは衝撃を受けた。許してくれると思い込んでいたからだ。
しばらくアレキバは公園内に立ち尽くしていた。
そんなとき、通りがかったトルーパー商店の人が彼に声をかけた。
「おい、おぼっちゃんじゃねえか。どうしたんだ?」
「……実は……」
一連の話を告げると、おじさんは難しそうな顔で腕を組む。
「そっか……」
「プレゼント、どうして貰ってくれなかったんだろう」
この貝殻は、トルーパー商店で高値で取引されている商品だ。
彼にはよく分からないが、女の人がよく購入して喜んでいる。
だから彼女も許してくれると思ったのだ。
落ち込むアレキバに、トルーパー商店の人はしばし考え、一生懸命言葉を選ぶ。
「タイミング……。もあると思う。だが、なんだろう。誠意がなかった、とかかな」
「せいい……?」
「あー。誠意っていうのはな……。そう、思いだ! 思いをこめたプレゼントなら、許してもらえるさ!」
「思い……。どうやったら思いが込められるの?」
「そうだなあ。手作りしてみたらどうだ?」
「手作り……。けど、どうやったらいいんだろう。自信ないよ」
「だったら、その貝殻をもとに細工してみればいいんじゃないか? それなら簡単だろう?」
「うん……。自信ないけど、やってみるよ」
アレキバは家に帰ると、彼なりに懸命に工作をはじめた。
元々あまり手先が器用ではないので、出来は散々たるものだった。
それでも、彼なりに誠意をこめて作り上げたのだ。
彼は不格好な貝殻を握りしめ、もう一度あの公園に向かった。