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3

 シンも私も、かちりと固まってしまった。


「な!? わ、私が!? フィーヴァさんのことを!?」


 そりゃ当然なことで、エリーシャも驚いている。


「ち、違います! 彼とはお見合いのときに会って以来、一度も顔を合せたことがありませんよ!?」

「……エリーシャさん。嘘をつかないでほしい。僕は怒らないから」

「本当に違うんです!」


 喧嘩している!? 

 

 そんな、ハッピーエンドは!? 


 幸せなキスをしてハッピーエンドになるはずでは!!??


 ――おい、ポンコツ幽霊。どうするんだこれ。


『ど、どうするって……!』


 パニックに陥っている間に、アレキバは悲しげに目を伏せるとエリーシャに背を向ける。


「二人で仲良くしてください。……では……」

「あ、アレキバ様……!」


 まずい。このままでは、二人は仲違いをしてアンハッピーエンド!?


『ええい、ままよ!』


 作戦変更!


 きゃ! うっかりぶつかっちゃった! 物理的な距離が縮まって、心の距離も密接に!? 作戦!!


『くらえ! アタック!』


 祈れば幽霊だって物理で体当たりできるはず!


 エリーシャに向かってアタック!


 しかし、


『なっ!?』


 突如、エリーシャの胸元が光輝くと、ユウナの体が吹き飛ばされた。


『ぎゃふん!』


 尻もちをつく。


『い、いたい……』


 ――今どき、ぎゃふんって……。


『う、うるさい! それよりも、何なの! 腕輪はついてなかったはずよね』


 ――おそらく、退魔の力だな。


『またあんた変なものを売りつけたの!?』


 ――いや、今回は違う。


 シンはまじまじとエリーシャの胸元を見つめる。


「それは、ペンダントですか?」

「え、ええ。まあ……」


 そちらに視線を向けると、彼女の胸元には貝殻の形のペンダントが光っていた。


「中々強力な退魔のアクセサリーですね。ですが、あまり見た目はよろしくありませんね。これでは値段も下がってしまいます」


 シンの言うことは正しい。貝殻には安物のビーズが不均等についており、見栄えは宜しくない。


 孤児の子供が丹念に作ったと言われれば、納得して購入するかもしれない。


『だとしてもさあ、シン。あんまりな言い方よ』


 ――ん? なにがだ?


『全く。そんなんだから、女性にモテないのよ』


 ――なんだと?


『愛する人とのパーティーにつけてきた装飾品なんて、彼女にとっては絶対に大切なものに決まっているわよ。ほら見なさい。エリーシャさんも怒っている』


 温厚な彼女も、目を吊り上げている。


「このペンダントは、思いの籠もった無くてはならないものです。値段なんてつけられません!」


 周りの人たちが驚いて視線を集中させる。


『こら、シン。謝りなさいよ』


 ――わ、分かっている。


「……すみません。言葉が過ぎました」


 それでもエリーシャの怒りは収まらず、キッと睨みつけている。


 そのときだった。


「そのペンダントって……」


 光に驚いたのか、シンとの喧嘩が気になったのか、アレキバは立ち止まり振り返っていた。


 彼の目は、ペンダントに奪われていた。


 エリーシャはさっと顔を赤らめる。


「こ、これは……。子供の頃に貰ったものなんです。あまり見た目は良くないかもしれませんが、思い出の品でして……」

「……思い出の品……。そう、思っていただいたのですね」

「……?」


 アレキバは、恥ずかしそうに頬をかく。 

 

「それ、私が小さい時に作ったペンダントなんです」

「……えっ! あ、あの時の男の子が、アレキバ様!?」


 アレキバとエリーシャの脳内に、小さな頃の記憶が蘇る。


 まだ十にも満たない小さな子どもだった頃のアレキバは、貴族としての教育ばかり受けていた。


 トルーパーの名を貸してはいるが、両親は商人の仕事を薄汚い金商売と蔑み、経済のけの字も理解していなかった。


 両親は貴族社会での戯れを至高の喜びとし、息子にも貴族の道を歩んでほしいと願っていた。

 

 だが、彼は貴族の細かくも理屈が通らない所作が合わなかった。


 それよりも、商店に遊びにいき、従業員たちと遊んでいたほうが楽しかった。


 両親はそれを良しとしなかった。アレキバを叱りつけ、無理やり貴族の教育を教え込んだ。


 その日も、小さなアレキバさんはフォークとナイフの使い方を叩き込まれ、霹靂としていた。


 溜まった鬱憤を晴らそうと、転がっている石をイライラと蹴り飛ばしていた。


 彼はつぶやく。


「あーあ。……僕も、おじさんたちみたいに、商品を売って、お客さんに喜んでもらいたいのに」


 フォークとナイフの使い方を理解したところで、誰かを幸せにはできないのに。


 けれど、そんなことを言ったら、お母さんやお父さんに怒られてしまう。


 ……でも……


 鬱憤のまま、石をける。


 思ったより、石は高く遠くへ飛んでいき、


「きゃあ!」


 がしゃん、となにかが壊れる音と、女の子の悲鳴が聞こえてきた。


「わっ! な、なに!?」


 慌てて走っていくと、呆然と立ち尽くす女の子がいた。


 彼女の眼の前には、壊れた砂のお城があった。


 ……お城には、石ころがめり込んでいた。

 


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