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『よーし、こうなったら、あのホワイトちゃんに協力してもらおう!』


 驚かさないように、エリーシャさんとホワイトに近づく。 


 ホワイトはユウナのことが見えるのでソワソワとする。   


『猫と言ったら猫じゃらし! だけど今ここに猫じゃらしはない』


 ならば、


『あたし自身が猫じゃらしになるってこと!』 


 ふわりと浮かんで、ひょいひょいと飛び回る。


『ホワイトちゃんー。こっちおいで!』


 ホワイトに近づいたり、遠のいたり。


 猫の本能をせっせと刺激する。


 警戒していたホワイトだが、次第に目をキラキラさせて、ユウナの姿を追う。


 エリーシャが「どうしたの?」と声を掛けるも、興奮した猫の耳には届かない。


『よーし、こっちよ!』


 思いっきり遠くへ飛ぶ。


 ホワイトは耐えきれなくなり、私の方に駆け出してくれた。


「ほ、ホワイト!?」


 計画通り!


 エリーシャはホワイト(&ユウナ)を追いかけてくれた。


『おっしゃ! あとで猫缶買ってあげるからね!』


 会場内に入ると、台本通り、シンはアレキバを捕まえて、あれやこれや話している。


 ついつい猫を連れてきてしまったものの、パーティーの参加者たちは驚きはすれど、ケタケタと笑っている。


 ほどよく酒で頭をやられているので、面白い出し物と思ってくれたのだ。


『連れてきたわよ、シン! ささっ、頑張って!』 


 ――当然だ。


 猫を捕まえたエリーシャを見て、シンはとろけるように微笑んだ。


「ああ、エリーシャさん。お久しぶりですね」

「……フィーヴァさん、ですよね」

「ええ。神父をやらせていただいております、シナリンセス・フィーヴァです」


 アレキバはシンと自身の妻を交互に見る。


「知らなかった。二人って、顔見知りだったのですね」


 文字面は丁寧ではあるが、声色が刺々しい。


 怒気を含んだ視線も動じず、シンは照れくさそうに説明する。


「ええ。実はエリーシャさんとはお見合いをさせていただきまして」

「……へえ、お見合い……」


 エリーシャさんが慌てて口を挟む。


「で、ですけど、お見合いはフィーヴァ様からお断りされたはずです」

「ええ。教会の経営が芳しくありませんでしたから。しかし、エリーシャさんはお美しい方だ。……もしあなたがよろしければ、今度お食事でも」


 彼女に答える隙を見せずに、アレキバさんが噛みつく。


「彼女は私の妻です。食事は却下致します」

「あっ、そうでしたか」


 シンは何でも器用にできる男だった。


 演技もお手の物。驚くフリも迫真だ。


 数秒、衝撃を受けた表情を作った後、まるで事実を飲み込みうっかり感情が表に出てしまったかのように、ひどく寂しそうな表情を作る。


「……そう、でしたか……」


 傍目から見ると、今のシンは『彼女のために身を引いたものの、その間に他の男に盗られてしまった不憫な男』であろう。


 それこそがユウナの作戦。恋愛における王道の変化球、『当て馬作戦』であるっ!


 嫉妬したアレキバさんは、エリーシャへの好意を赤裸々に告白してしまうだろう。


 エリーシャは、はじめてアレキバさんの思いにふれ、思わず自らも告白する。


 二人の思いは結びあい、幸せなキスをしてハッピーエンドだっ!


『ふっふっふっふ……。これぞ完璧な計画っ!』 


 さあ、物語は終幕だ。


 ここからは、お互いの好意をさらけ出す場面!


 ――うまくいけば良いのだが……。


 言霊、という熟語をユウナは思い出す。


 良い未来を口にする人には幸せが訪れ、ネガティブな未来を憂いている人には不幸が訪れるあれだ。


 おそらく、シンが不吉な一言を心の中でつぶやいたせいで、計画が崩れてしまったのだ。そうに違いない。


 二人の口喧嘩は、ハッピーエンドに繋がらなそうな方向へと転がっていった。


 シンの賞レースレベルの演技をみて、エリーシャは戸惑う。


 心の声が聞こえるので、何を戸惑っているのかは把握できる。


 彼女は、こう思っている。


 フィーヴァさんって、私のこと、全くの無関心だったはずなのに、と。


 彼女は記録を遡り、シンとの見合いのシーンをなぞる。


 一流レストランで、エリーシャとシンは対面していた。


 眼の前のシンは、数々のソムリエを唸らせたワインをひどくまずそうに口にする。


「それで、エラージョさん」

「エリーシャです」

「ああ、すみません。大変申し訳ありませんが、お見合いはお断りさせていただいます。エバージャさんには悪いと思っています」

「エリーシャです」


 回想終わり。


 エリーシャは考え込む。


 あの人、私の名前すら覚えていなかったのに、好きだったの? と戸惑っていた。


『いや、名前くらい覚えなさいよ!』


 どれだけ関心がなかったんだあんた!?


 自分の名前すら正確に覚えられない男が、急に好意を持っている素振りをみせてきたら、戸惑うしかない。


 シンは心の中で言い訳を唱える。


 ――名前は覚えていたさ。あれは演技だ。関心のないふりをしていただけだ。


 さてさて、アレキバはというと、じっとエリーシャの表情を見つめている。


「……そうか。そうだったんですね」


 何かを理解したらしい。


 ……何を理解したのだろうか?


『まさか、当て馬作戦がバレた!?』


 幸運なことに、作戦自体はバレていなかった。


 ……バレるよりも、悪い方向には進んだが。


「あなたの好きな人は、シンさんだったのですね」

「……へ?」

『……へ?』


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