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『次の作戦!!!! 考えてきたわよ!!!』
「ああ!!!! なんだ!!!???」
この前の作戦は、失敗も失敗、大失敗だった。
仲良くさせるどころか、二人のこじれを更に深めてしまった。
その場限りの考えではうまくいかない。
ユウナは考えに考え、次なる作戦を提出した。
『その名も!! 幽霊に絡まれちゃった! だけどだけど! 愛しのあの人が助けてくれた! キャ、好き! 大作戦!!!』
「いや、待て待て。それはこの前の二の舞いになるぞ」
『違う違う。絡む相手はアレキバさん、助けるのはエリーシャさんよ』
「……男のプライドは……?」
『大丈夫。アレキバさんの心を読んでみたけど、男のプライドなんてしょうもないものはなさそうだったわ!』
最初こそ、エリーシャが扉をぶち壊して引いていたものの、その後の彼はエリーシャの元気ハツラツさに感動していた。
アレキバは、昔から体が弱かった。
幼い頃の夢は軍人さんだったが、一次試験の身体測定ではじかれ、諦めて家業を継いだのだ。
華奢なエリーシャが見せた力強さに、アレキバは心底惚れ直していた。
『だから、この作戦もうまくいくはずよ! 感謝するアレキバさん。こんな自分も好きでいてくれると気づくエリーシャさん! 二人は急接近! そして、ラブラブに!!』
「よしその作戦でいこう!!」
即決即実行!!
『ではでは早速!! あたしがアレキバさんを脅かすわ!!』
「頼んだ!」
真っ昼間から幽霊が出ても怖くはない。
幽霊に遭遇するなら、やっぱり真夜中だ。
アレキバの仕事終わりのタイミングを、決行の時とした。
ユウナは声を潜めて耳打ちする。
『シン、エリーシャさんが通りがかるように調整した?』
シンも小さな声で答える。
「ああ。近辺にエリーシャさんの友人宅があってな。今日はそちらに用事があるらしい」
本来なら、貴族階級は馬車を使って目的地に向かう。
だが、そこらの魔物程度なら素手でも倒せるエリーシャなので、徒歩で向かうとのことだ。
「あと数分でここを通りがかる」
『オッケー!』
先にアレキバを脅かさなくてはならないので、彼が先に通りがかるよう調整している。
シンやユウナが丁寧に入念に準備をしたおかげで、完璧なタイミングでアレキバがやってきた。
『きたきたきた!』
ユウナは、シンが用意してくれた布をかぶる。
なんとこの布、触るとキラキラ光るのだ。
こんなものが急に現れたら、腰を抜かすに違いない。
シンは「布一枚で中々な金額がかかったが、先日、教会の商品をたっぷり買ってくれた人がいたからな。購入できたんだ」とドヤ顔していた。
『よーし、いくぞ!!』
『脅かすのである!』
ふわふわも、楽しそうにふわふわしている。
こんなにワクワクしているふわふわを見たのは初めてかもしれない。
『いくわよ……!』
一、二の……!
『おばけだぞ!!!!』
『虫であるー!』
襲いかかる一人と一匹。
だが、
『きゃう!!』
アレキバに近づこうとしたが、なにかの壁にぶつかり、弾かれてしまったのだ。
『な、な、なに!?』
衝撃で布が取れてしまった。
『どうしたのであるか?』
ふわふわは不思議そうにふわふわしている。
ふわふわは、ユウナのように見えない障がい物に阻まれることもなく、アレキバさんのそばから、ユウナのもとへとふわふわ移動する。
『気のせいかしら? よしもう一度』
アレキバ目線では、風もないのに布が落ちてきたのだ。
首を傾げて、布に近づく。
自然と、布を装備しようとしたユウナに接近した。
『うぎゃあ!』
壁のようなものが、ぐいぐいと迫ってきたのだ。
『ひいい!! なになに!!??』
急いで逃げて、シンの後ろに隠れる。
『なんなのよあれ!!』
「何かあったのか?」
『近づけないの! 壁みたいなものに阻まれて!!』
「……阻まれる……。まさか、あの腕輪の影響か?」
言われてみれば、いつもつけていない腕輪をつけている。
『あれが何なのよ』
「うちの教会で販売している、魔物よけのアクセサリーだ」
『……へ? し、シンのところで売っている商品?』
「販売文句は、『恋を邪魔する魔物を祓ってしまおう! これであなたもラブラブに!』だ」
『恋を手助けする天使も妨害しているじゃないの!!!!!』
「……すまない……。非常に複雑な気持ちだ……」
シンが思い出したのは、昨日たくさんの恋愛商品を買ってくれたとある人物だった。
主人の使いで来ているんです、と苦笑いしていた。
貴族階級の人間たちは、単に忙しいのか、大っぴらに恋愛成就の商品を購入するのが恥ずかしいと思っているのか、本人は買いに行かず、使いのものに買いに行かせる。
いつものことだとシンは思い、あれこれと遠慮なくおすすめした。
その中の一つが、退魔腕輪だったのだ。
「……もう少し詳しく聞けばよかったか。いや、だがお客様の情報を深煎りするのは商売人のタブー……」
『あっ、エリーシャさんが来ちゃったわよ!』
何もできぬまま、二人は合流してしまった。
アレキバは彼女に気づくと、顔を赤らめてたどたどしく挨拶する。
「こ、こんばんは」
「……こんばんは、アレキバ様……」
エリーシャは気まずそうに視線をそらす。
視線をそらす先が、まあ悪かった。
彼女はなんと、シンの教会でも一番の高価な腕輪を見てしまったのだ。
「その腕輪は……」
「ああ、これはその、とある店から購入したもので……」
ここで、「あなたとの仲を深めるために買いました! 他にもいっぱいあります!」なんて言ってくれればすべて解決してくれるのに、変にごまかそうとする。
シンの不自然な返事に、
……エリーシャは、最悪な方向に解釈してしまった。
彼女は、こう思ったのだ。
もしかして、他の人からもらったプレゼントではないか、と。
『いやいや、なんでそうなるのよ』
思わずユウナが突っ込むが、エリーシャはそれが真実と思い込んでしまった。
「……それでは、失礼します」
彼女は足早に去っていってしまった。
そっけない彼女の態度に、アレキバは呆然と立ち尽くす。
そしてこっちはこっちで、最悪な解釈をしていた。
自分のことが嫌で嫌で仕方ないのに、こんなところで会ってしまった、みたいな態度だ、と。
『そっちもそっちで、どうしてそうとしか考えられないのよ!!』
二人の疑心暗鬼は深まっていく。
『……本当に、似たもの同志ねあなたたち!!!!』
シンはぽそりとつぶやく。
「ユウナがなぜ騒いでいるのかはわからないが、今回の作戦も失敗したことだけはわかったな」
ふわふわだけが、アレキバさんの周りをくるくると回っていた。
ユウナとシンは、意気消沈してとぼとぼ歩いていた。
お互い、会話もなく、目的地もなく、ただただ歩いていた。
ユウナは考える。
あの二人を仲良くさせるどころか、仲違いさせてしまった。
他の良い作戦を考えようとも、いい案は全く浮かばない。
……いや。
一つだけ、作戦は思いついていた。
だが、作戦にはシンの頑張りが必要不可欠である。
もしかしたら、……彼を傷つけてしまうかもしれない、そんな作戦を。