1
ターゲット候補のカップルが、何も知らずに近づいてくれた。
「ねえあ・な・た。今日は縁結びのお人形買ってくれるんでしょう? 楽しみねえ!」
「お値段は張るけど、効力はめちゃくちゃあるんだろ?」
「ものすごい魔力の有る人が作っているんだって!」
「ああ。気になるなあ」
「ぬいぐるみを真ん中にして、今日は夜まで一緒にいましょうね? 本当は明日も夜までいたいけど、お仕事で無理なのよね」
「ごめんねハニー。代わりに今日はたっぷり愛してあげるよ」
「もう、あ・な・た」
ポキリ、と枝が不自然に折れて、二人の頭に降り掛かった。
「う、うおう!? なんだ!?」
「もう、頭に葉っぱがついたじゃないの!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐカップル相手に、ホコリのような虫がぴょんぴょん跳ねる。
『ユウナ、やったのである。人間のカップルを不機嫌にさせたのである!』
『ふわふわ。甘いわね』
灰色の髪の毛は真っ直ぐで長く、ぱっちりとした黒目は知的に輝いている。
仕事ができそうなオーラが漂っており、その上彼女の体は宙に漂っていた。
ユウナは半透明な手で頭を抱え、ゆっくりと首を横に振る。
『ほら、見てみなさい』
カップルははじめこそ不快そうにしていたが、数十秒後にはお互いの腕を絡み合い、いちゃこらしていた。
『あの程度の嫌がらせは、カップルを燃え上げて終わりよ』
『うむ……。人間とは難しい生き物であるな』
『ふっふっふ。あたしも記憶喪失のハンデはあれど、立派な女子なのよ。ふわふわには負けられないわ』
『さすがリア充撲滅委員会幽霊支部委員長であるな……。して、どうやってあのカップルを別れさせるのであるか?』
『まずは徹底調査よ』
カップルはベタベタと体を触りっこしはじめた。
ユウナはぶん殴りたくなるが、グッと堪えて観察する。
カップルの男は近くのベンチに座る。女性は荷物だけを置いて、飲み物を買いにいった。
男は彼女がいなくなると、あぐらをかいてニヤリと笑った。
ユウナは幽霊なので、人の心が読める。
男は心のなかでこう言っていた。
――けけっ。ちょろい女だ。今日一日遊んでやるよ。明日は別の子と遊ぶから、今日だけだけどな!
『……』
ユウナはふわふわと見つめ合い、こくりと頷いた。