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万来宿  作者: いしかんみかん
1/4

一泊目:虹の鳥を探しに

ラベルとメイコウの最初のお話。

噂の虹の鳥を探しに霧に包まれる山へ入っていった二人は、果たして虹の鳥を見つけられるのでしょうか。

「にしても、客こねぇな」

静かな宿のロビーで、俺たちは寛いでいた。

「仕方ないよ。数日前からずっと雨だし、みんな足止めくらってるんだろうね。万来宿(ばんらいしゅく)は街から離れてるから、こういう日は客が減るんだ」

「たいして強い降りでもないのになぁ……なぁ、ラベル。この記事読んだか?」

旅人である大柄な男『メイコウ』が、この宿の主人である俺『ラベル』に今朝の新聞を見せてきた。

「あぁ、虹の鳥ね。見つけると幸運が訪れるっていうやつでしょ」

「そうそう。どういう訳か、長い雨の後にしか見つからないらしいんだ」

「でもそれって都市伝説でしょ?目撃例はあるのに、誰も捕まえたことは無い。道に迷った旅人が霧の中で見た幻覚ってのが噂の始まりだし」

そう言うと、メイコウが持っていたジョッキを置いて立ち上がり。

「ラベル、捕まえに行こう!俺たちが最初の捕獲者になるんだ!」

メイコウの唐突な提案に、俺は窓の外を眺めて言った。

「……雨、まだ降ってるけど」


 まだ小雨が降り続ける山を慎重に登っていく。

雨で地面がぬかるんでおり、油断すると滑り落ちそうだ。

「おーい!ちょっと待ってくれよ!」

十数歩先を歩くメイコウを呼び止める。

「お前、また体力落ちたな。旅人時代はこのくらい余裕だったろ」

「昔はそうでも、今は宿の主人だ。こんなに歩くことも無くなったし」

ようやっとメイコウに追いつくと、あることに気がついた。

「なぁ、メイコウ。なんか、霧が濃くなってないか?」

「まぁ、山の中だし、まだ雨降ってるしな。にしても、ちょっと危険だな。早めに下山するか」

そう言ってメイコウは先へ進んで行く。

「……進みはするのね」


 しばらく登り続けたが、虹の鳥どころか生物の気配すらしない。

霧も濃くなってきており、目の前を歩くメイコウより先がほとんど見えない。

「メイコウ、一応聞いておきたいんだが、アテがあって進んでいるのか?」

「いや、全く」

やはり当てずっぽうだったか。

「流石に霧が濃すぎる。もう下ろう」

「いやぁ、そうしたいところなんだがな。ここまで濃いと、俺にも帰り道がわからねぇや」

「お、お前な....」

普段なら一、二発叩いているが、疲れてそんな気にならない。

「よし、ラベル。今日はこの辺りで野宿しようぜ。これ以上動くのは危険だ」

「はいはい。で、食料は?」

「勢い出来たから、ない」

「だろうね。この霧がいつ晴れるかも分からないし、最低限の食料は確保しておこう」

「だな。と、ラベル。これ腰に結んでおけ」

メイコウに湿った縄の端を渡された。

「これを互いに結んでおけばはぐれないし、お前が滑落しても俺が支えられる。要するに命綱だな」

渡された縄を腰に結びながら、大きくため息を吐く。

「はぁ……なんでこういうのは持ってるのに、食料を持ってこないのかね、お前は」

冷たい縄を結んだら取れないのを確認し、食料探しを始めた。


 大量の木の実にキノコ、山菜、果物を地面に置く。

何度か転んだり滑落しかけたりしたせいで、すごく疲れた。

「こんだけあればしばらくは大丈夫だな。ラベル、料理は任せるぜ」

「それはいいけど、どう作れってのさ?こんたところじゃ火も起こせないよ」

そう言うとメイコウは果物を手に取り、口に放り込んでしまった。

「ちょっ!?」

「……うん。生でもいけるぞ。これ美味いな」

シャクシャクと咀嚼音を立てながら、二個、三個と食べていく。

「味じゃなくて衛生面。まだ洗ってないんだぞ、それ」

「雨で洗われてるし、平気だって」

「お前の異様な強さの胃腸と一緒にするな。で?これからどうする」

メイコウは種を吐き捨て、また次の果物を手に取る。

「もう今日は動かない方がいいな。さっきより霧が濃くなってるし、晴れるまでは無闇に動かない方が良い」

「つまり、しばらくは宿もお休みって訳か」

「ま、客いなかったんだし、気晴らしと思おうぜ」

大きくため息を吐くと、足先から疲れが込み上がってきた。

そのまま疲れに身を任せて寝転がる。

「俺は疲れたから、しばらく寝てるよ。霧が晴れたら起こして」

「どんだけ寝るつもりだよ」


 ……近所のガキ大将だ。

……カラスをいじめてたのか。

……羽が治るまで、ここにいていいからな。

……ほら、この足のテープが友達の印だ!

……またな、もう捕まるなよ。


「……ベル……ラベル!おい!起きろ!」

メイコウに体を揺すられて目が覚めた。

……随分昔の夢を見たな。

「……なんだよ、メイコウ。霧じゃ腹は膨れないぞ」

「寝ぼけてないであれ見ろ!」

メイコウの指す先に目をやる。

そこにはカラスが一羽いた。

「カラスがどうかした?あんなの、その辺にもいるじゃんか」

「そうだけどそうじゃない。カラスは群れる鳥だ。こんな山奥に一羽だけいるのはおかしい」

言われてみれば確かにそうだ。

「でも、カラスだって生きてるんだ。あのカラスは一羽の方が気楽なんだろ」

「まぁ……それはそう。でも、ラベル。あの”話”を覚えてるか?」

「あの話?」

「ほら、宿で見た”虹の鳥”の話だ。今の俺たちの状況、ピッタリじゃないか?」

道に迷った旅人が霧の中で見た……だったか。

確かにピッタリ当てはまる。

「でもあれはカラスだぞ?虹色じゃなくて、真っ黒の」

そうこう言っている間にカラスは飛び上がり、俺とメイコウの上を通って行った。

「ラベル!追いかけよう!」

「は!?いや、ちょ!ひ、引っ張るなっ!!」

結んだ綱に引っ張られ、霧の中を走り出した。

 

 しばらく走ったところで、メイコウが足を止めた。

「くそっ!見失った!」

メイコウにもたれかかり、乱れた呼吸を整える。

「はぁ……はぁ……どうするんだよ……食料……置いてきたんだぞ」

メイコウは辺りを見渡し、カラスを探す。

しかし見つからなかったようで、その場に座り込んだ。

「悪い、ラベル……がむしゃらに走ったせいで、方角も分からなくなった」

「お前が後先考えないタイプなのは知ってるから、別に怒ろうとも思わないよ。それより、ここからどうするかだ」

霧はまだ濃いし、体も疲れている。

このまま動かずにいるのが一番か。

「ラベル。もう動くのは控えよう。霧が晴れてから、山を下ろう」

「あぁ……とりあえず、少し休もう」

俺もその場に座ろうとしたその瞬間、地面に輝くものを見つけた。

不思議に思い手に取ると、それはキラキラ輝く黒い羽であった。

気がつけば、辺りは薄っすら明るくなっている。

そろそろ朝のようだ。

そう考えた瞬間、メイコウがいきなり立ち上がった。

しかし走り出すでもなく、ただ一方向を見つめている。

視線の先に目をやると、そこには虹色に輝く鳥が飛んでいた。

互いに顔を見合わせ、見間違いではないと確信する。

今度は足並みを揃えて、一緒に走り出した。

距離を測るように飛ぶ虹の鳥を追いかける。

まるで、俺たちを導いているみたいだ。

そしていつの間にか霧を抜け、万来宿のすぐ近くに出た。

しばらく追いかけると、虹の鳥は一気に速度を上げ、その身体を黒に戻した。

その黒い鳥の足を見て、オレは目を丸くした。

しかし、黒い鳥はあっという間に遠くへ行ってしまった。


 周囲を見回すと、万来宿がすぐ近くにあった。

二人で呆然と立ち尽くしていると、前方に何かを見つけた。

それは先程と同じ黒い羽だった。

水滴が朝日に照らされて、微かに虹色に輝いている。

「なるほど。どうりで捕まらないわけだ。虹の鳥の招待は、朝陽が水滴で反射したカラスだったとは……元気そうでよかった」

メイコウにもう一つの羽を渡し、万来宿に向かって歩き出す。

「メイコウ、ありがとな。いい思い出ができたよ」

「そっか。なら良かった。じゃ、俺はそろそろ旅に出るかな」

万来宿のドアを開け、メイコウを中に入れる。

「土産を待ってるよ。それじゃあチェックアウトをしよう」

お読みいただきありがとうございました!

楽しんでいただけたなら嬉しいです。


下手な表現や文章があると思いますが、素人と思って大目に見ていただけると…助かります。


ラベルを中心に動く……訳でもない、アナログな世界の日常物語。

次回もよろしくお願いします!

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