視察
あれから1年
闇魔法の練習を繰り返すのだがなかなか上達せず、ほかの魔法が既に使えることから結局母さんは一旦息子に闇魔法を習得させることをあきらめたようだ。
4歳になっても同じような生活が続く中
ある日の朝、リンに「アルト様。朝です」と起こされる。
俺は起きたくなかったので、剝がされた布団をつかんで戻そうとするが
「特別な用事がありますので急ぎますよ」
俺はリンに抵抗むなしくも無理やり布団を剥がされ抱っこし、リビングへと連れていかれた。
いつも着る服ではなく、公務用なのか着飾った服を着せられリンとともに馬車に乗せられる。
「今日はどこに行くの?」
と尋ねると。
「今回は港に行きます。海軍を視察するだけですが」
ほほう、港か。ということは海を見れるという事か。
ここの首都イリノは一代目の街づくりが下手だったのかはよくわからないが、大通りが城門から港につながる道が直線で一本。その他は途中で折れ曲がって違う方向に行ったりと迷路のようになっていてとても不便そうな街である。
自分が魔王となれば直ぐにこの問題を解決したい
暫くして海鳥の鳴き声と波打つ音が聞こえてくる。
馬車から顔をのぞかせると、目の前には海が広がり大きな木造船が”何隻か”だけしか停泊していなかった。
道沿いでは出店が出て、海鮮系のものを串焼きにして売っていた。
とても興味をそそられる匂いである。
海軍司令部に着くとトカゲみたいなやつが出てきた。
「お待ちしておりましたアルト様。海軍司令官のアジゲードです」
深くお辞儀をされ、司令部建物に入っていく。
「アルト様にはこれから軍艦に搭乗していただくぞ。今回搭乗するのは軍艦イリノだ」
へぇ~父さんがつけたのか?と思うとその通りであった。
「魔王様直々に命名した軍艦だ。最新装備を整えていてとても快適に過ごせるんだぜ」
俺は司令部から出てアジゲードとリンと共に軍艦イリノに搭乗する。
軍艦イリノはそこらの軍艦よりひときわ目立って大きく、大砲も倍以上あるようだった。
帆を張り、出港し港から離れていく。
海風は気持ちよく。潮の匂いは4年間引きこもっていた自分にとって新鮮であった。
出港中、アジゲードから編成についての話を聞かされた。
フリゲート艦7隻、軍艦3隻の10隻を1船団とした船団が4船団あるらしいのだ。
そろそろ昼であろうか。太陽は真上まで昇り、光が体に突き刺さる。
「アルト様。昼なのででここらでお昼ご飯と行きましょう」
船内にある会議室のようなところに案内されアジゲードが手を叩くと、扉から食器や鍋を持ったゴツイ海男たちが登場した。
謎の魚の塩焼き、貝やエビなどを混ぜたアヒージョなどが登場。
アジゲードが「メイドの方もどうぞ」と食器を出す。
海鮮料理なんてめったいに食べないため俺の腹はなりまくっていた。
頂きますと手を合わせ、食べ始める。
「美味しい・・・」
「おぉ!よかった」
アジゲードが喜ぶ
「どうしてそんなに喜ぶの?」
質問すると
「あれ、魔王様は海鮮料理が好きではないのを知らなかったのか?」
なるほどね。だから海鮮料理は食事にめったに出てこないわけだ
「それで、アルト様も海鮮料理がお口に合わないかと心配しておりまして・・・」
「大丈夫だよ。僕は海鮮料理が大好きだから」
そう告げておく。
「海軍司令部に来ればいつでもお作り致しまするぜ」
「ありがとう」
みんなで海鮮料理を食べ終え、港に帰港する。
その後は各艦を見学したり、船員に言葉をかけたりと絶対子供がやるべきではない仕事をやらされた。
俺はゆっくりしたいのだ。
それと気づいたことがある。
錨を上げたり下ろしたりするときに人の手で回すのではなく、魔道具を使って行っていた。
俺はそれに気づき、アジゲードに質問する。
「アジゲードさん、これは魔法で回しているの?」
「そうだな。あらかじめ設定された魔導装置に魔石をはめたり魔法を流すことで動かすことができるんだ」
「なるほど」
「アルト様は魔導装置に興味があるのか?」
「まぁ少し。馬車も魔法を使って動かせればいいのになぁって」
「確かにな。それはとても魅力的だが魔力が足りねぇ」
「そうだよね」
俺は一通りの用事が終わると、建物の陰から視線を感じた。
そこにはひょっこっと建物陰から顔を出しこちらを見てくるトカゲ頭の男の子がいた。
「あぁ、アルト様。あれは俺の息子だ。できれば友達になってほしい」
「いいよ」
「ボン!そこから覗いてないでこっちに来やがれ!」
するとボンというアジゲードの子供はこちらにタタタタ・・・走ってきた。
「このお方が次期魔王様候補であるアルト様だ。しっかり挨拶するように」
「初めまして。アジゲードの息子のボンです」
「アルトです。よろしく」
俺が手を差し出すと握手してくれた。
「まだ時間もありますし、お二人で遊んできてもいいですよ」
とメイドのリンが言う。
俺とボンは港の近くにある公園へと足を運ぶ。
去り際に「ボン!何かアルト様に危険が迫ったらすぐに助けろよ!」
それをボンは振り返り「うん」といって頷くのであった
いいねありがとうこざいます!