生まれ変わって帰ってきた男 (後編)
2024年 10月7日 (月) 午前10時25分 有馬温泉
畳間の宴会場に長机と椅子を持ち込んでまで、ノロエステと国際機関、各国との非公式会談が続いていた。日本の関係各省庁からも人がきていた。
「何度もいってるだろう。精霊に排出量取引という理屈は通用しない。一人当たり2tの割当量を守らないと、守らなかった国には精霊の恐ろしい報復がある」
「精霊と対話ができるのは世界で閣下だけなのです。その割当量では世界の大半の文明が維持できません。電信や電話のようにどうにかなりませんか」
ノロエステは同じことの繰り返しにうんざりしていた。
「一言いっておくぞ。その電信だっていつまで使えるのかは私にもわからん。100年後にも利用できるとは思わんほうがいい。あくまでも、しばらくは使える、というだけのことだ。知らなかったとはいわせんぞ」
「では、その割当量を段階的に減らしてもらうように‥‥」
アメリカを筆頭に、一人当たりのCO2排出量が2tを超えている国家からの特別大使などが、有馬温泉で骨休めをしていたノロエステの所へ押しかけてきていたからだ。
「前にもいったが無理だ。私にできることは全部した。あとは君達ができることをする番だ」
「原子力や火力だけではありません。自然エネルギーであったとしても、発電すること自体が禁じられているのです。一人当たりのCO2排出量を2tに制限すること自体には何の根拠もないだろうと、閣下も仰っていたではありませんか」
精霊が制限しているのはCO2排出量だけではない。仮にCO2排出量で妥協を引き出したら、他の分野でも妥協を求めることは明らかだ。それに付き合う義理はノロエステにはない。
「精霊へ無理な要求をしようとするな。無理なものは無理なんだ。それよりも、まだ飛行機が飛べるうちに国に帰りなさい。そうでなければ、テレビでやっている地域紛争や民族紛争を止めることに力を入れるがいい。もう3カ月を切っているんだ」
「世界中の国が、マスケット銃と大砲で均一化されるのです。蒸気機関の船舶の数だって揃っていません。それに、閣下は魔法を教授することを拒んでおられます」
ノロエステは呆れた顔をしてみせた。
「これも前にいったはずだ。魔法というのはその国が持つ最高の文化の結晶だ。もしもスパイ行為が発覚すればそれは戦争を意味するといっていい。そして、君達が、それに値する対価を払えるとは思えん」
そして、最後にこう付け加えた。
「私は、私の王国の臣民以外に魔法を教えるつもりはない」




