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生まれ変わって帰ってきた男  作者: 名無しのオプ=アート
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生まれ変わって帰ってきた男 (前編)

   2024年 1月1日 (月) 午前0時25分 渋谷駅前交番



 サイレンの音で、ノロエステ・グルチノソ・デ・ティグレは目を覚ました。


 もう日本の夢を見ることも少なくなっていたが、救急車の中にいる夢を見たのは初めてだった。若い頃に無理をしたツケが回ってきたのか、近頃は体のあちこちの具合が良くない。


 そのせいでこんな夢を見ているのかとノロエステは可笑しくなった。


 2010年12月31日の夜、異世界の前王国『この世の王国』の王立騎士団員ノルテ・グルチノソ・デ・ティグレの長男ノロエステとして転生してから58年生きてきた。『この世の王国』王立騎士団入団から始まり、現王国『噴水の花咲く王国』の建国・運営に携わることで、ティグレ公爵家創設へと異例の陞爵(しょうしゃく)を果たした。


 転生前は、東京都あきる野市の中学2年生渡邊光。遠い遠い夢のようなお伽噺にも思えてくる14歳として暮らしていた。


「おっ、この人目を覚ましたぞ。日本語わかりますか?どぅゆーすぴーくじゃぱにーず?」

「前は日本人だもの。日本語くらいわかるよ」

「えっ」


 ノロエステは体を起こした。体を固定していたベルトは魔法で切断した。


 58歳になっても、198センチ96キロの鍛えられた体をノロエステは維持している。覗き込んでいた救急隊員も思わず仰反った。


「えっえっ。ベルト外れた? 切れてる? 嘘でしょ?」と、ストレッチャーの側にいた救急隊員がベルトを手に取った。


 サイレンの音。ゆっくり走る車の振動。救急隊員の驚いた顔。赤色灯が回っている。辺りを見回すと、救急車の中もそれらしく出来ている。


 ノロエステは救急車に乗った経験はなかった。テレビか映画の記憶だろうが、人間の脳というものは不思議なものだと思った。


 そして、救急車の匂い。匂いが、ノロエステを大きく揺さぶっていた。断片的な記憶の泡が音を立てて噴き出してきていた。


 病院、白衣。保健室、小学校、中学校、友達、先生。マンガ、アニメ、ゲーム、ドラマ。日本の海、山、川。お盆、正月、田舎への帰省。どれもこれも、一瞬のことだ。


 そして、家。両親。妹達。携帯電話。ミニバン。家庭菜園。朝食のコーヒーの匂い。


 生まれ変わってから58年も経っているのにな。生きていれば、一番下の妹が70歳。父親より4つ若い母親でさえ100歳近い。


 思わずノロエステの胸は熱くなっていた。


「帰れたとしても、2068年か。2068年。親不孝したもんだ」


 救急隊員からの名前、住所、電話番号、生年月日、今日の日付の問いに対して、14歳の渡邊光だったころの住所、電話番号、生年月日を答えていた。


 今日の日付は、咄嗟に2010年12月31日と口にしていた。


 まあいいさ。2010年だろうが、2068年だろうが、どうせ朝になると忘れている夢の中だ。いままでこんな夢は見た覚えがない。それにしても、目が覚めると忘れてしまうのは惜しいとノロエステは考えていた。


 名前には、ノロエステ・グルチノソ・デ・ティグレと答えた。


 渡邊光の人生14年の3倍以上をこの名前で生きてきた。それが自然になっていた。


 救急隊員に勧められて横になったノロエステは、すぐ到着した病院の集中治療室へと運び込まれた。


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