地域課大森とタコの宇宙人とメンイン黒い人
漫画で見るようなタコ型の宇宙人が漫画で見るようなUFOに乗って現れ、大森定雄の自転車にぶつかった。
(うーわ。めんどくせぇ)
大森は地域課。交番のおまわりさんである。
まだ学校を出たばかりで若い。
波風の無い公務員人生を送ろうとした初日にとんでもない事になったなとため息をついた。
(無視できねぇよなぁ)
「申し訳ありませんっピッ」
(謝り方も漫画みてぇだ)
宇宙人を裁く法律があるとは思わないが、一応は調書を書かなくてはならない。
(適当に話聞いて帰らそう)
「名前は?」
「田中太郎だっピッ」
(読んだことあるなぁ)
「年齢は?」
「10963アクオスだっピッ。地球では16だッピ」
「えっ?未成年なの?」
もしかしたら生活安全課に連絡した方がいいかなと思ったが、絶対に信じてもらえないだろうし、事実を話すのが面倒だ。
「意外とUFOって脆いんだね。俺とぶつかっただけでヘコんでる」
「それはさっきダンプに当て逃げした時の傷だっピッ!」
「……」
交通課の仕事だ。
(聞かなかった。俺は何も聞かなかった)
「危ないものとか持ってないよね?」
「特殊詐欺で入手した麻薬ぐらいしか持って無いッピ!」
本当なら刑事部が出てくる。
捜査本部なんて建てられたら自分は間違いなく招集させられる。
大森はジョークとして受け止め、宇宙人の身体検査はしなかった。
「仕事は?」
「アクタンだっピッ!」
「それってなぁに?」
「極道だっピッ!」
(……反社だ)
四課に相談する気もない。さっさと指紋を取って帰ろうと思った。
(こいつ。指紋あるのかな?)
「あっ!駄目だっピッー!」
UFOから縄で縛られた男が転がり落ちてきた。
身体中傷だらけだ。
「……た、す、け、て」
「あれだけ痛めつけたのに凄いっピッ!」
男は息を引き取った。
最後の力を振り絞ったのだろう。
「捜査一課かぁ」
終わったなと肩を落とした。
いくら大森がいい加減な男でも警察組織の人間として殺人を見逃す訳にはいかない。
しかも大森は被害者に見覚えがあった。
「警視総監じゃん」
警察は身内意識が物凄く高い。
警察の。しかも総監が殺られたとなったら宇宙人相手でも容赦なく捜査するだろう。
もしそれで宇宙戦争なんかになったら……
「ヘイッ」
「なによ?道案内は今無理よ」
大森に話しかけてきたのは黒人の若者と白人の中年だ。
二人共サングラスにブラックスーツ。
「おまわりさん。このペンを見てよ」
「ペン〜?」
カシャッッッ!
ペンが光った!……まぶし。
「記憶消去っと」
・
・
・
「おまわりさん」
「はい。なんでしょう?」
「浅草に行きたいんですけど」
「はいはい。えっとですね」
退屈だなぁと大森は椅子に腰を下ろした。
定年までこれが続くと思うと少し鬱になる。
「おまわりさんが暇なのは良いことだけどね」
「あのー」
「はいはい?」
黒人の若者と白人の中年。
サングラスにブラックスーツ。
「あんたには悪いけどさ。少し厄介な事になったのよ」
黒人の方が大森の肩を叩く。
「君たちの警視総監とやらが悪の宇宙人だと分かった。巻き込んですまないが、ちょっと『仕事』に付き合ってくれたまえ」
中年がペンを大森に向けた。
「何の設定?コスプレ?秋葉原だったら……」
カシャッッ!!
ペンの光を見た瞬間に大森の記憶が蘇った。