人生短いんだから、遊びとして成立しない仕事なんかしちゃダメでしょ?
ビバ! 中身の(しか)ない会話!
「ああ、夜霧君またやってるのか?」
ベランダから夕日を眺めながらつぶやく。
「あんただって、最初のころはあんな感じだったでしょ?」
となりでミネラルウォーターをわざわざグラスに注いで飲んでいる空美がつっこむ。うるさいなぁ、おまえだってそうだろ?
「私はあなたより、3回少ない。」
「誤差以下の誤差だろ?」
時間にして100年未満?、ほんと誤差じゃん。
「年数じゃなくて、回数に決まってるでしょ?」
いやいやいや、人それぞれ到達点が違うわけだから、むしろ現時点で回数が多い方がいいんじゃね? とは思っても口に出さない。
「口に出さなくても思ったら意味ないのよね?」
そう言われて頭を小突かれる。
ふーん、じゃあカモフラージュだ。
並列してたくさんの正論を思い浮かべる。僕たちくらいになると嘘がつけないから、この技を使えるのは結構希少種だ。空美と一緒にいられるのも、この技を身に着けているからだと思う。
「たしかにひとつひとつはわからないけどねー、あんたが考えていることは全部、私に都合が非常に悪いのよ!!」
顔の形が一瞬で変わっていた。
「り、理不尽すぎる。」
「どさくさに紛れて、私のことかわいいとか…、きもいのよ。」
やっぱりこいつと一緒にいられるやつなんていない。
「…まあ、そのへんはなんだかんだ感謝してる気もするんだけどね。」
聴こえないように言ってるつもりだろうが、当然、聴こえる。僕を誰だと思ってる? そんなことわかってるだろうに演出が過ぎる。
「あーもー、そんなんだからあんたは!」
いいじゃん、僕はそういうのは織り込み済みでやってるんだから。そういう意味ではこんな僕にもツッコミを入れてくれるこいつの存在こそ希少だ。
「…ばか」
もちろん、このシナリオもたくさんの線の中の一つで、目的地から観測することで世界を収束させただけなのだから、僕のやってることはズルい。
「それでも、そこから見ようとしてくれたのは変わらない。」
…。…。…。キモイ。
ドゴッ! バサッ! キュッ!
「ねえ? 理不尽?」
「い、いいえ…」
「で、夜霧君、どうするの?」
話題を変えてきたか?
「察しなくていいから!」
いや、それ言葉に出したら、せっかくそれた話題が元に戻るだろ? これだから空っぽ姫は…。
………グギ。
気がついたら、左手首があらぬ方向に屈折してた。おい、まじ、テレカクシやめろ。そして隠す気あるならちゃんと隠せ。
「空っぽと思われて照れる意味が分からなのですが?」
「いや、ごもっとも。」
うん、会話が意味不明すぎる。これで完全にコミュニケーションはとれているのだから、言葉って本当になんなの? だから、唐突に本題に入ってもどちらも驚きはしない。
「奏多ちゃんと夜霧君は接点持った方がいいだろうけど。」
「時間の問題なのはわかるけど、その間にいくつ文明が滅びるか不確定だね。」
夜霧君が問題なのはわかるけど、あの子をあそこまで停滞させてしまって、その牢獄から出られれないようにしている理由はなんだろう? 昔、流行したっていう文明淘汰ゲームなのかな? 禁忌じゃん。
「俯瞰しててもわからないことはあるよね。」
「奏多ちゃんとはちょっとした接点はあるわけだし、干渉しちゃう?」
「停滞に個人因子以外の理由がありそうな夜霧君はともかく、奏多ちゃんは自分で何とかしそうだし、してもらわないとなんだけど?」
「固いこと言わずに遊びに行こう。」
「…仕事なんだけど?」
「人生短いんだから、遊びとして成立しない仕事なんかしちゃダメでしょ?」
「仕事で遊びだからこそ、責任もっていろいろ考慮しなきゃいけないんじゃないの? 遊べる場所がなくなるようなことになったらどうする?」
「頭を柔らかくしようよ?」
「僕は考えすぎるほど考えているの! むしろ、空美がその一本道の発想から自由になれよ!」
とは言え、お互いそれ以上にわかってるわけなので、結局、何も言わないまま意見は一致した。んー、会話って無駄だよね?
「何言ってるの? 無駄があるから私たちもあの人たちもこの子たちも存在できるんでしょ?」
いまさらその当たり前を口にするのは、空美さん? そういう当たり前こそが縛りなんだからさ。もっと面白く縛りたい。
「前から怪しいと思ってたけど、あんた、世界を創る気?」
「ぎく」
次回! 転生の秘密! 乞うご期待!(うそ)