言わなきゃいいってもんじゃないのよ!
だらだら。
「あれって、奏多ちゃんだよね。」
机に突っ伏してる俺に向かって語り掛けてくるのはくーである
神代空美。
本人に言ったことはないが、とても似合った名前だと思う。
美しさが空っぽ…。
あ。あ、あ、目が怖い、やめて?
「因幡さんちのおねえさん?」
「おねえさんって、あのね。あの子、いちおう私たちよりずっと年下よ?」
「だって、比較対象よりもあまりにも美しさが充実し…」
「…この冷却ファン、私がおすすめしたんだっけ?」
「すみません、すみません、もう言いません」
「言わなきゃいいってもんじゃないのよ!」
「そこまでは、絶対に無理だよ。」
俺のこの性格がどうにかなるものなら、道理を引っ込めてでも押し通して忖度してみせるけど。
「はぁ~、こんなのと幼馴染とか最悪。」
「ほんとに。」
くーの言い分は正直わからんでもない。俺がくーの立場だったら、たぶん嫌だ。だって、俺、間違いなく性格悪いし。つまり、見えてる部分も見えてない部分も等しく黒いわけで、…漂白して天日に干す?
「大丈夫、そらくんがかわいくなるくらい、私の方が黒いから。」
「あの、さっき俺のこと最悪って言わなかった?」
「言いましたけど何か問題でも?」
「そこは撤回しないんだ?」
「する必要がどこにあるのかしら?」
最悪で大丈夫とか、矛盾すると思うんだけどな。
「しないわよ。」
「くーは大きいなあ、胸が…」
「…3回殺す。」
ガンっ! バンっ! ゴンっ!
「…リフジ…ン」
ちなみに、くーも俺も性格が悪いってことに関しては、記憶が関係しているのはほぼ間違いない。そしてここに生まれたことも関係している。
実際のところは、お互いに性格が悪いというよりは、複雑さの中の単純な部分だけを取り出して表現しあっているから、共鳴し合って特にそう見えるというのが本当のところだろう。
「そらくんのそういうところ、口に出さないのはえらいよね。」
「口に出さないだけじゃなくて、これでも努力して考えないようにもしてるんだよ?」
「それもわかるわよ。私だって、こういう仕事を任されちゃうくらいだからね。」
「お互いに。呪われてるよね。」
呪われてると言えば…。
「で、さっきの奏多さんって、あの転生者の抑止力の子?」
「そ。異世界交流におけるワークシェアリングの問題点に関して、実効的な対処手段を発動する条件について悩んでた子ね。」
「くーの方がじゅうぶん理屈っぽいのはマジ大草原。」
「じゃー、どう言えばいいのよ?」
「周りの見えてない転生者をぶっ飛ばしていいか悩んでいた子とでも言えば?」
「それだけじゃ、本質が見えないじゃない?」
「本質ねぇ。奏多さんがその本質を視野に入れていることが普通に稀有だよね。」
「仲間に欲しい?」
「うーん、条件をクリアしてくるなら拒む理由はないけど…」
正直、いっしょに仕事をするよりは、彼女にはあっちで仕事を全うしてくれた方がありがたい。それにどう彼女自身が答えを出すかにも興味がある。
「まー、そらくんはそう考えるよね。でも私は奏多ちゃんと話してみたいかな。」
「奏多さんが直面する本質の話と、くーのその考えは、きっと同じレベルの話だと俺は思う。」
「そこよね。」
「そこだね。」
こうして、くーとそらは仕事の種を見つけた!
ふわふわの世界。