無口で冷たい騎士様、身分差婚約で「男に二言はない」と言われましても、本当は婚約破棄したいですよね?
柴野いずみ様主催の『ガチムチ❤️企画』参加作品です。
たくさんの感想、誤字脱字報告、いつもありがとうございます!
先に言っておきます、ヒーローかなり不人気です(笑)
1.
ミランダ・二ールソン男爵令嬢は、親交のある伯爵夫人のお付きで王妃のサロンに手伝いに上がったが、その日は急に体の不調を感じて、早々に退出することにした。
よろよろと自分の馬車に乗り込み屋敷へと走らせたが、途中、どうしても息苦しくなり、遠慮がちに、水場に寄るよう馬車の御者に頼んだ。
水場で、少し体を冷やせないかと思ったのだ。
御者はこれはたいへんだと、すぐに適当な水場へ馬車を走らせた。
広大な王宮敷地内には東屋を中心とした憩いスペースがいくつかあるが、その東屋は王宮敷地の外れの方にあり、わりとカジュアルに使われることが多かった。
ミランダは御者が選んでくれた憩いの場に「ここなら」と少しほっとした。
馬車は静かにその東屋の傍にとまり、ミランダが頭を押さえながら馬車を下りた途端、何やら歓声が聞こえてきた。
「え……」
ミランダが重い頭を上げると、その憩いスペースの水場で、数人の若者が戯れているのが見えた。
騎士団の連中だろうか。
たいそう仲が良さそうにふざけ合っている。
しかも、皆、上半身が裸だ……。
勤務明けで汗でも流そうとしているのか?
鍛え上げられた筋肉が、若者たちの体の動きに合わせてキラキラと水を弾いた。
「あ……」
ミランダは慌てて、馬車に引き返そうとした。
裸の男性を見ちゃった?
変な噂が立っても困る……。
が、そのとき、水場の若者の一人が声をあげた。
「おいっ、リューク! あれ、おまえの婚約者じゃね?」
えー? どれどれー?
若者たちが一斉にミランダの方を見た。
確かにその中に、ミランダの婚約者、リューク・ホーヴァー伯爵令息がいた。
リュークは鬱陶しそうな目でミランダを見た。
ミランダはカーっと真っ赤になり、顔から火が出るかと思った。
男性の裸の場面に遭遇してしまった! しかもそんな場面を婚約者に知られてしまった。
あまつさえ……婚約者の上半身裸を見てしまった……。
ミランダは居た堪れなくなって、隠れるように体を縮こまらせると、足早に馬車に戻ろうとした。
体調は悪いけれど……馬車に戻った方がマシだ……恥ずかしすぎる……。
「おい、リューク、なんかおまえの婚約者、体調悪そうじゃね?」
また誰かが声をあげた。
ミランダはビクッとした。
もう、私に構わないで……無視して、やり過ごしてちょうだい……。
ミランダは必死に胸の内で祈った。
そのときリュークの声がミランダの肩越しに聞こえた。
「そうか? どうでもいいね」
「どうでもいいっておまえ、冷たいなあ……」
仲間の男が呆れた声を出した。
「確かに! こいつ、社交場でも全然婚約者エスコートしないもんな!」
別の誰かがそう言ってバカでかい声で笑った。
その場の騎士団の連中は釣られるようにして笑った。
ミランダは、ひどく悲しく惨めな気持ちになりながら、背中を丸めて馬車に戻ると、座席に倒れこむように逃げ込んだ。
リューク様。
仲間と楽しんでいたところを私なんかが水を差してしまった。
きっと迷惑がっている。
それに、きっとあの騎士団の仲間たちは、「リュークの恋人に裸を見られた」とか面白半分に吹聴して回るのだわ。
私は今まであんまり目立たなかった分、変な感じで噂になってしまうに違いない。
リューク様もそんな風に婚約者が言われていい気分なわけがない。
ただでさえ、伯爵家と男爵家という格差があっての婚約。リューク様にとって私はだいぶ格下の婚約者。
リューク様にはあまり快く思われている気がしないのに。
これでまた……嫌われてしまった。
ミランダはやるせない気持ちになって、手で顔を覆った。
私はなんて恥ずかしい女なの?
もう、こんな自分が大嫌い。
2.
ミランダの体調不良は少し回復までに時間がかかった。
裸の騎士団との遭遇で心労が増えたせいもあるかもしれない。
寝込んでいる間にも夜会やら茶会やらは続くのでいちいち断りの連絡をいれたが、ミランダの気持ちを沈ませたのは、やはり婚約者のリューク・ホーヴァー伯爵令息からの確認の連絡だった。
リュークはいつも
「ご一緒には出席しませんよね?」
と聞いてくる。
リュークの伯爵家とミランダの男爵家では招待される夜会や茶会に差があるが、どんな会でもエスコートの相手として婚約者を同席させる人は多い。
リュークも一応形式上はミランダが婚約者なので同席の伺いを立てるのだが、その聞き方が「ご一緒には出席しませんよね?」なのだ。
一緒に行く気ゼロなのがひしひしと伝わってくる。
ミランダはそのたびに荒んだ気持ちになって、
「もちろん(出席しない)です」
と答えるのだった。
そもそもなぜ、ミランダの婚約者がリュークになったのか……。
それはただひたすらに、お互いの祖父同士が決めたから、の一言に尽きる。
同じ騎士団内で無礼講で交わることが多かったミランダの祖父(男爵家)とリュークの祖父(伯爵家)。騎士団OBとなった今も身分を超えて大の仲良しだ。
お酒の席だったか、ギャンブルの席だったかは定かではないが、祖父たちの何かつまらない賭け事で、ミランダとリュークの婚約が決まったのだった。二人はまだ生まれて間もない頃だった……。
ミランダは、この格差絶大な婚約がそんな風に決まったとを知った時だいぶ呆気にとられたが、格下のうちはまだしも、格上のホーヴァー伯爵家は本当にそれでいいのかと心底疑った。
ミランダの父もそうだった。
何度も何度もホーヴァー伯爵家に確認した。
しかし、ホーヴァー伯爵家からの返答はいつも同じ。「男に二言はない」
「男」って祖父殿のことだろう!? その祖父殿が亡くなった後でも、それは罷り通るのか!?
祖父殿が亡くなったら婚約はきっと破棄される……。
ミランダもミランダの父もそう思っていた。
だから、ミランダは努めて影を薄くしようとした。
目立つことを極力避け、数少ない女友達からの「婚約者は?」の質問にもいつも曖昧に答えていた。
しかし、そんなミランダの気持ちを知ってか知らずか、ミランダの祖父もリュークの祖父も騎士団OB会では酔っぱらっては肩を組んで、互いが親戚になることを喜び合っていたのだった。(そしてたまにその二人の間に孫のリュークがしっかりと挟まれるという。)
なんなの、この筋肉の親友同士しか納得していない婚約は。
ミランダは微妙な立場に追いやってくれた祖父を恨みがましく思ったものだった。
3.
さて、ミランダの体調が回復し、ようやく外出ができるようになると、母がミランダの病欠を詫びるためにミランダをあちこちの社交場に連れて回った。
男爵家たるもの、格上の貴族からのお呼ばれを断ってしまっては、やはり大変気を遣うのである。
ミランダはいつも以上に気合を入れて身だしなみを整え、礼儀正しくしていた。
そんな折、ある夜会でミランダが挨拶回りを一通り終えて一人ぽつんとしていると、ミランダはリュークの姿を認めた。
「あ、リューク様」
心の中では思うが、口には出さない。
まして話しかけるなんてもってのほか。
リュークは一人の令嬢と話をしていた。
ミランダはその令嬢を知っていた。
ニコラ・ボーリング伯爵令嬢。社交界の華と呼ばれる令嬢だ。
彼女はたいそう美人で明るくて、そして気さくで誰とも話すので、あちこちの社交場で重宝されていた。
とても有名な令嬢だったのだ。
だが、ミランダは思わずその二人に目が釘付けになった。
リュークもニコラもたいへん楽しそうに笑いあっていたからだ。
リューク様って、あんなふうに笑うんだ……。
ミランダはぼんやりと思った。
そしてリューク様をそんな顔にさせるニコラ様ってすごい、と感嘆した。
ミランダは、だいぶ無防備に長々とリュークとニコラを眺めていたようだった。
ニコラがミランダの視線に気づいた。
急に顔を顰める。
ニコラが顔を顰めたので、不審に思ったリュークがその原因を探ろうとしてミランダの姿を認めた。
ミランダはニコラと目が合ったことに狼狽していた。
リュークはそんな情けない様子のミランダを迷惑そうな顔で睨んだ。
「あ……」
ミランダはもっと取り乱してしまった。
あああ、しまった!
リューク様はこんなつまらない婚約者がいることをニコラ嬢に思い出させたくなかったに違いない。
また、楽しそうなリューク様に水を差すような真似をしてしまった……。
ミランダの心に真っ黒な重しがのしかかってきた。
息苦しさを感じる。
また、やってしまった。
もうだめだ……。
分かっている。
これは互いの祖父が亡くなるまでという期間限定の婚約者。
しかし、いくらそうだとしても、ミランダはリュークに嫌われたくなかったのだ。
残念に思ってもらいたくなかったのだ。
恥ずかしい思いをさせたくなかったのだ。迷惑な思いをさせたくなかったのだ。
ミランダは二人に背を向けると、泣き出したい気持ちでその場を走り去った。
4.
ミランダが失敗を恥じて夜会の端っこで縮こまっていると、幼馴染のマーティン・バーネット男爵令息がやってきた。マーティンは商売を成功させているバーネット家らしく、とても気配りが利く優しい青年だった。
「ミランダ?」
マーティンは遠慮がちにミランダに話しかける。
「え、あ……」
ミランダははっと顔を上げ、相手がマーティンだったのでほっとした顔をした。
「どうしたの。つらいことでもあった?」
マーティンは優しく聞いてくれる。
「ううん」
ミランダは慌てて首を振った。
マーティンはいつも優しくて、つい甘えてしまいそうになる。
「そう?」
マーティンはミランダの言葉を信じていないような口調だ。
「俺にはどうせ婚約者のリューク殿のことで悩んでいるように見えるけどね」
ミランダはドキッとしたが、
「う、ううん。格下の私が婚約のことで悩むなんておこがましいでしょ」
と平静を装って答えた。
「婚約者に遠慮しすぎじゃないかと思うけど。格上だと恐縮するよな」
マーティンはペロッと舌を出した。
ミランダは思わず目を見開いた。
「さらに騎士団の連中はなんか陽気だったりぶっきらぼうだったり、距離感難しいからなあ。気を遣って生真面目に生きてる身としては、構ってくれるなと思う時もあるね」
マーティンは笑った。
ミランダもつられて笑った。
「構うな? マーティンでもそう思うの」
「そうだね」
マーティンは大真面目な様子で大きく頷いてみせた。
それから二人は顔を見合わせて、もう一度笑った。
ミランダは急に呟いた。
「……私、マーティンくらいの人が婚約者だったら良かった」
「マーティンくらいってなんだよ」
マーティンは唇を尖らせた。
「だって」
ミランダはマーティンの変な顔を笑ってから、
「身分のせいで悩まなくてすむんだもの」
と顔を緩めて言った。
「それ褒めてんの? まあ、褒め言葉ってことにしておいてやるけれども」
マーティンはため息をついた。
「でも、俺にはあんなすごい筋肉はないぜ?」
ミランダはまた笑った。
「婚約に筋肉どうでもいいじゃない!」
「筋肉どうでもいい?」
ふと太い声がして、ミランダが驚いて振り向くとそこには婚約者のリュークが仁王立ちで立っていた。
「あ……」
一気にミランダが緊張に包まれる。
マーティンもリュークの声が怒気を孕んでいたので、顔を引き締めた。
リュークはミランダを睨んでいる。
「人の悪口言って、ずいぶん楽しそうだな」
「ごめんなさい、そういうわけじゃ……」
ミランダが消え入りそうな声で答える。
ミランダの顔がみるみる歪んだ。
またやってしまった。
なぜ? なぜよりによってこんな誤解を与えるようなことを言ってしまったタイミングで?
リュークの背の高いがっしりとした体躯は、ミランダを威圧する。
マーティンがミランダを庇うように口を挟んだ。
「そうですよ、私たちは決してリューク様の悪口を言っていたわけではなく……」
「おまえは黙れよ。おまえの話なんか聞きたくねーわ」
リュークはマーティンに被せるように言った。
「マーティンは悪くないの」
ミランダは蚊の鳴くような声ですすり泣きながら言った。
リュークはミランダが泣いているようだったので少しバツの悪い顔をした。
しかし、それも一瞬のこと、また顔を不快そうな顔をすると、
「こいつを庇うのか? おまえらできてるのかよ」
と投げやりな言い方をした。
とんでもない嫌疑をかけられて、ミランダの顔から血の気が失せた。
「あ!」
マーティンがミランダの異変に気付いて慌ててミランダに駆け寄ろうとした。
それをリュークが突き飛ばす。
「ちょっと、何をなさるんですか!」
マーティンが床に転がりながら抗議の声をあげた。
その瞬間、ミランダの体が床に崩れ落ちた。
「ミランダ!」
マーティンが精いっぱいの手を伸ばす。が、間に合わなかった。
リュークは微動だにせず冷たい目で、床に倒れこんだミランダを見下ろしたままだ。
「ちょっと! あなた、婚約者でしょう! なぜ助けないんですか!」
マーティンは床に這いつくばったまま怒鳴った。
「黙れよ。おまえに指図される筋合いはない」
リュークはマーティンに目をもくれずぴしゃりと言った。
それから、ようやくかがみこむと、ミランダの体を軽々と担ぎ上げた。
「なんじゃこりゃ。軽すぎだろ、飯食ってんのか、こいつ」
5.
ミランダが目覚めると、そこは見たこともない部屋だった。
良く整えられたベッドリネンの上に、丁寧に寝かせられている。
え、どこ!?
ミランダは混乱する。
えっと、グリーソン伯爵家の夜会で倒れて……え、倒れて? ってことはここはグリーソン伯爵家?
ミランダの脳裏に先ほどの記憶がまざまざと蘇ってくる。
そうだ、またリューク様を怒らせちゃったんだった……。
それからミランダは身震いした。
怒らせたどころか、マーティンとの不貞を疑われちゃったんだっけ。
不貞……。
ミランダは観念したようにため息をついた。
今度ばっかりはもうだめね。
おじい様が健在なうちは婚約頑張ろうと思っていたけど、もう無理だわ。
至らない孫娘でごめんなさい……。
もうこれ以上は、リューク様をがっかりさせ続けるわけにはまいりません。
ミランダはぎゅっと目を閉じた。
婚約者のリューク様……。
本当は、認められたかったです。でもそれは叶いませんでした。せめて迷惑をかけないように思っていましたが、それも……。
それからミランダは吹っ切るように目を開いた。
「うん、婚約はお終い」
「何がお終いだよ」
急にぶっきらぼうな声が聞こえてきた。
「えっ」
リューク様、いたの!?
ミランダはぎくっとした。
「勝手にお終いにすんな」
リュークは部屋の隅の方で腰かけていたのだが、ミランダが目覚めたとなって近づいてきた。
「どうしてここに……」
ミランダが狼狽えていると、リュークは怪訝そうな顔をした。
「ここ、俺の別邸だけど」
「えええええっ!」
ミランダは心底驚いた。
「なんで、私、そんなところに」
「俺が連れてきたに決まってんだろ。倒れるもんだから驚いたよ」
リュークはうんざりした声を出した。
ミランダはまたベッドの上で小さくなる。
「すみません……」
「謝んな。まあ、俺も悪かったから」
リュークはがしがしがしっと頭を掻いた。
と、そこへ、
「リュゥ~クゥ~」
と甘えた声が隣室から聞こえた。
誰! もしかしてニコラ嬢!? さっきリューク様は、ここが別邸だって言ったわよね!? 逢引の場所!?
ミランダは緊張した。
しかしその横で、リュークはがっくりと肩を落とした。
「おまえ何考えてんだよ……」
「え?」
私の考えてること分かるの? ミランダはドキッとした。
「おまえ、顔に出すぎだからな」
リュークはため息をついた。
それからうんざりした顔で隣室とのドアを開けて見せた。
「お、おじい様!?」
ミランダはドアの向こう側で一生懸命聞き耳を立てていたかのような姿勢のミランダ祖父を見て、ぽかんとした。
「おじい様、なぜここに!?」
「わしもいるよん」
リュークのおじい様もドアからひょいっと顔を覗かせた。
ミランダは開いた口がふさがらなかった。
リュークはこめかみを押さえながら口をへの字に歪めた。
「ジジイが酔っぱらっても尚帰りたがらないとき用に、この部屋は借りてある。母上たちを煩わせるわけにいかないからな。うるさい騎士団の連中のたまり場になってもいるから、もう少しすりゃさらに人が増えるかもしれない」
「そうそう、リュークは優しく介抱してくれるんだよねえ」
リュークの祖父はうっとりとした顔で言った。
「気色わりい」
リュークは吐き捨てた。
しかし急にリュークの祖父は真面目な顔になった。
「にしても、ミランダさん。婚約お終いとか言ってなかったかい?」
「あ」
ミランダはハッとした。
「聞き間違いじゃろ~」
ミランダの祖父はリュークの祖父の肩をポンポンと叩いた。
「そうだよねえ、まさかねえ~」
リュークの祖父はまた笑顔になった。
「ミランダ……こいつら酔ってるから」
リュークがぼそっと言った。
ミランダは二人のご機嫌な老人をじっと眺めながら迷っていた。
それでも言わなければ、と意を決した。
「あの! 婚約、お終いにしたいんです!」
「「「は!?」」」
リュークと、リューク祖父とミランダ祖父が同時に声をあげた。
「リューク様が気の毒すぎます! 私なんかの婚約者じゃ可哀そうすぎます」
ミランダはぎゅっと手を握って、一生懸命に言った。
「俺、可哀そうじゃねーよ」
リュークは憤慨して抗議した。
「え! だっていつも、不機嫌そうだし、うんざり顔だし、ニコラ様とは楽しそうだし……」
ミランダは泣きそうになって言う。
ジジイ二人は汗をかきながら声を潜めた。
「だ、誰か知っとるか? ニコラって……」
「さあ、わしゃ知らん……」
リュークはジジイ二人を無視して、不満そうにミランダに言った。
「俺はいつもこの顔だ! ニコラ嬢だって、俺の婚約者殿がよそよそしいからいつも何かと心配してくれているだけだ」
ジジイ二人はがっしりと抱き合いながら、目を回しそうな勢いで深刻ぶって話している。
「ニ、ニコラって女かの……?」
「女じゃろ……?」
リュークはそんなジジイ二人をキッと睨んでから、またミランダの方を向いた。
「そっちこそさっきの男と仲良さそうだったじゃないか」
ミランダはビクッとなった。
「マーティンのこと?」
ジジイ二人は、また汗をかきながら声を潜めた。
「だ、誰か知っとるか? マーティンって……」
「さあ、わしゃ知らん……」
ミランダは必死な顔でリュークを見つめた。
「彼は本当にただの友達です」
ジジイ二人は、またがっしりと抱き合いながら、目を回しそうな勢いで深刻ぶって話している。
「マ、マーティンって男かの……?」
「男じゃろ……?」
「うるせえ、ジジイども! 黙ってろ」
リュークはリューク祖父とミランダ祖父に向かって叫んだ。
それからリュークはミランダの方を向いて真面目な顔で言った。
「婚約やめたいのか?」
「え、そ、それは……」
ミランダは口ごもる。
……本当はやめたくない。
でも、リューク様に迷惑をかけたくない……。
リュークはそんなミランダの困った顔を見て、小さくため息をついた。
「じゃあ、やめる必要はなし。婚約は継続。俺は迷惑なんて思ってない」
ミランダは目を見開いて不思議そうな顔をした。
さっきからリューク様は私の考えていることがが分かっているかのよう。
「だから言ったろ。顔みりゃ分かるって。おまえが人から注目されたくないのも、俺に遠慮してるのも。気にしてるのは身分か? 理由の方は全く分からんが。だけど、それと婚約やめるは別の話だろ」
リュークは言った。
「えっと……」
ミランダは少し混乱した。
つまり、リューク様は私を迷惑とかには思っていなくて、婚約は継続したくて……?
「それって」
ミランダの頬が急に赤くなった。
まだドアからこちらを覗いているジジイ二人は、満足そうに笑っている。
「リュークはおまえさんが好きなんだよ」
「ジジイっ! 黙ってろっ!」
リュークはドアに近づくと力いっぱいバタンッと閉めた。
それから耳を真っ赤にしてリュークは振り向いた。
「まあ、そういうことだ。だから婚約はやめない」
ミランダも真っ赤になった。
リュークは意を決したように言った。
「俺はジジイのお守りばっかりさせられてるし、普段付き合うのも騎士団の連中ばっかり。かなり口下手だろうとは思うけど、嫌なことは嫌だと言うから。その……あんまり……誤解しないでくれ。迷惑とか、思ってないから……」
「はい」
ミランダは嬉しそうに頷いた。
リュークが少し不器用なだけだということが分かったから。
だが、リュークは一つ言いたいことがあったことにハッと気づいた。
「おまえが嫌なら、これからもパーティでエスコートもしない。だけど、あんなふうに他の男と俺の悪口を言うのは止めてくれないか? あれは少し傷つく。俺の悪口はまだしも、他の男とっていうのは。それなら俺にエスコートさせてくれよ」
「あっ」
ミランダは小さく叫んだ。
「ごめんなさいっ! あの、エスコート、してくださるの?」
リュークは微笑んだ。
それからちょっとしっとりとした空気を吹き飛ばすように、
「ジジイども、話は終わったぞ!」
と隣室に声をかけた。
ジジイ二人はドアを少し開け、ひょいっと顔を出した。
「ハッピーエンドかの……?」
ミランダはふっと微笑んだ。
「はい。ハッピーエンドですわ」
最後までお読みくださいましてありがとうございました!
とっても嬉しいです!!!
柴野いずみ様主催の『ガチムチ❤️企画』参加作品です。
ぶっきらぼう筋肉バカを書く予定が、ただのダメ男になったもよう。(感想欄の率直なコメント、ありがたや~)
これだから企画参加は勉強になります!(前向き笑)
それでも……もし少しでも面白いと思ってくださったら、
ブックマークやご評価★★★★★の方いただけますと、
作者の今後の励みになります。
よろしくお願いいたします!