帰り道フレンズ(ファイナル) 二人は帰り道フレンズなのだから
人影。
誰かがやってくる。誰だ?
もちろんハナに決まっている。他に誰がいると言うのだ。
助かった。救世主ハナの登場。
フフフ……
「ハナ? 」
「どうしたの? 」
「それがロスの奴がご機嫌斜めでさ。吠えて吠えてどうしようもないんだ」
いくら倉庫だって言っても近所迷惑には違いない。すみやかに大人しくさせる。
だがロスはちっとも聞いてくれない。
「ロスがさあ。もう手に負えないよ」
「お腹空いてるんだよきっと」
「ああ。だから高級ドックフードを与えてみたんだ。ちっとも食わない。
せっかくのクリスマスプレゼントなのにさあ」
「おじさん。ロスの気持ち分からないの? 」
「面目ない」
「しょうがないなあ」
ハナはロスのお世話をしている。
だからロスが今何を求めているか分かるらしい。
「たぶんこっちだよ」
いつもの鶏肉を与える。
現金なもので無視して寝ていたロスは立ち上がりハナを舐めまわす。
「ロス! おいしい? 」
ハナが無邪気に笑う。
その最高の笑顔が私の追い求めていたもの。
この笑顔が見れるだけで満足。
ハナの笑顔で一日の疲れが吹っ飛ぶというもの。
「ロス。それはないだろう。私だって私だってお前を思ってさあ…… 」
「おじさんこの子のこと全然分かってない」
「いやその…… 」
「動物の気持ちなど分かってたまるか! 所詮獣ではないか」
と言いつつ昔飼っていた猫を思い出す。
あの子も最初はしつけるのが大変だったけ。
ただ単純に犬に慣れていない。
犬の気持ちが分からないだけなのだ。
猫と犬とでは全然違う。勝手が違う。
「言い訳は良くないよ。おじさん」
ハナに怒られてしまった。
あのハナに怒られるとは思っても見なかった。
「それにクリスマスなんだからやっぱりチキンじゃなきゃ」
「それもそうだな」
どこでどう勘違いしたのか高級ドッグフードを与えるミス。
ハナはお世話に忙しい。
私のことなど構ってくれない。
ほんの少しだけ嫉妬する。
まさか犬にジェラシーとは情けない。
ハナ……
「おじさんそろそろ帰ろうか」
お世話を終え倉庫から出る。
ロスが寂しそうに吠える。
いつものこと。
ロスにとっては挨拶のつもり。
一吠え終えると眠ったのか大人しくなった。
「行こうか」
「うん」
手をつなぐ。
ゆっくりゆっくり歩くハナ。
たまにスキップ。
私もつられてスキップ。
恥ずかしがらずに合わせられるようになった。
スキップ。スキップ。
笑い合う。
「おじさん! 」
手をほどき今度は抱き着いてくる。
「おいおい。どうしたハナ? 」
「手が疲れちゃった」
ハナが甘える。
「まあ仕方ないか」
フフフ。
「もう。ハナちゃんと歩いてくれよ」
「いいからいいから」
「これじゃあいつまで経っても帰れないよ」
「おじさんもこういうの好きなくせに」
「ははは。ばれたか」
「ハナは甘えん坊だな」
ハナは目を擦る。
「ハナ? 」
「大丈夫だよおじさん…… 」
無理しているようだがもう限界のようだ。
「ハナ? おーいハナ」
寝た? まさかな……
まあいいか。
重い荷物はどうするべき?
眠ったハナを抱きかかえる。
ふう、だいぶ重くなったな。成長期だもんな。
体力には自信はないがハナを落とさずに懸命に前を向く。
起こさないように。
怪しまれないように。
今日はもうハナのママは帰宅しているだろうか?
誤解が解けたばかりなのだからおおごとにするわけにもいかない。
どうしよう。
どうしよう。
ハナが目を覚ました。
「おじさん? キャアー! 」
「それはないよハナ」
「エヘヘへ…… 驚いちゃった」
降ろしてやる。
「さあ歩くぞ! 」
「うん」
最後まで送ってやることにした。
手を出してくる。
「もういいだろ? 」
「もうちょっとだけ」
「しょうがないなあ」
ハナの右手を左手でがっちりつかむ。
「行こうか」
「うん」
再び歩き始めた。
「ハナ」
「おじさん」
もういいのかもしれない。
何度そう思ったことか。
それでも諦めきれずにハナを追い求めた。
彼女は応えてくれた。
それだけでいい。
根本的な問題に答えが見つかったわけではない。
現在進行形でハナに脅威が迫っていることも百も承知。
ロスの出現で危険は飛躍的に改善されたがもちろん完全ではない。
ハナの安全が保障されたわけではないのだ。
できることなら毎日一緒に帰ってやりたい。
それが私の願望でもある。
私がハナにしてやれることは限られている。
ただ週一回会うだけ。
それだけだ。
彼女を本気で思うなら養子縁組するなり一緒になるなりの方法もある。
だがハナにはママもいる。
簡単には行かない。
だからこう決めたんだ。
ハナとの時間を大切にしようと。
できるだけ長く一緒にいようと。
ハナも私を求めている。
私もハナを求めている。
二人のことを考える毎日だ。
でもどうだろう。
未来なんて誰も予測できない。
ハナとの生活も悪くない。
遠い未来なんか関係ない。
道がある。
ハナがいる。
私がいる。
ただそれだけでいい。
何と言っても私とハナは友達なのだから。
そう二人は帰り道フレンズ。
また会える日を楽しみにして。
「ハナ着いたよ」
「うん」
「おやすみハナ」
「うん。おやすみなさい」
帰り道にはもう誰ひとり歩いていなかった。
帰り道フレンズ
<完>
私とハナとの恋物語はこれにて一応の完結を迎える。
帰り道フレンズは永遠に。