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だいしゃりん!!  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
25/33

25 公式戦

「――――――すげぇ人数だな……こんなにたくさん出場者がいるんだ……」

「一応は公式戦だからな、しかし世界戦に比べれば微々たるものだぞ」

「世界戦か………………」

「今は、そんな先の事を考えている場合ではないぞ」

「そ、そうですよね……目の前の勝負に集中しましょう」

「うむ、そうしてくれ……コースにライン取り、それとルールはちゃんと頭に入っているな?」

「はい! もちろんです、いつでもいけます!!」

「それなら、ついでにこれも頭の中に入れておいて欲しいのですよ?」

「はい? 天ヶ崎さん、なんです……これ?」

「以前に礼宮院会長から受け取った設計図の解析が終わりましたので、重要なポイントをちゃんと頭に入れておいて欲しいのですぅ」

「重要なポイントって言われても……俺、設計の事なんかなんにもわからないですけど?」

「小難しい事は無視していいのですよ? 重要な点は一点だけです……この、脅迫型DLSの設計はまだまだ脆弱ですよ? おそらく未完成だと思われるのですぅ」

「未完成? そんな状態で実戦に臨んでくるんですか? あの礼宮院グループが?」

「罠の可能性も否定しきれないが、しかし、向こうは向こうで事情もあるのだろう……卑怯かもしれないが、もしも、この弱点を利用できそうならば躊躇せずに利用して欲しい」

「あまり気は進みませんが、久藤さんがそういうなら……」

「京一郎さん、情けは禁物ですよ!」

「わかってるよ、輪」

「京一郎さんに輪? 呼び捨てなのですよ? い、いつのまにそんな関係に………………」

「ち、ちがうってば! 理亜ったら、勘違いしないでよ!!」

「うぅ……リア充なのですよ? 悔しいのですぅ」

「僕としてはトラッカーとローダーが深い絆で結ばれるのは大賛成だ! ますます希望が見えてきたな!!」

「ちょッ!? 久藤部長まで!? そんなんじゃないんですってば!!」

「おい、輪……遊んでる場合じゃないだろ。そろそろ本戦が始まるんだぞ」

「わ、わかってますよ……まったくもぅ………………」

 刻一刻と迫るスタート時間を気にしながら俺たちは、互いに戦略と役割を最終確認し、軽くリハーサルをしている最中だった……前にどこかで聞いた、聞き覚えのある鈴の音と共に低音ながらもよく通りそうな男の声が聞こえてくる――。


「おやおや? 偶然だねぇ、まさかこんなところで久藤くんに会えるとは思わなかったよ」

「礼宮院……輌………………」

「あれれ? オレの記憶違いかな? 確か前のレースで久藤くんの専用機は大破してしまったと記憶しているんだが……違ったかい?」

「僕の専用機は修理中だ……貴様のおかげでな………………」

「人聞きの悪い言い方はやめてくれないかい? まるで僕が悪いみたいじゃないか? まぁ、確かにちょっとだけ、ほんのちょっとだけ君のマシンと接触しまった事については否定しないがね……しかも、たまたまマシンの最も脆い部分に接触してしまった事については本当に同情するよ……いやぁ、偶然っていうのはこわいものだねぇ、本当の本当に同情するよ」

「………………気にするな、自分の腕が未熟だったからこその結果だ」

「そうかい? ならいいんだけど……ところで、代用のマシンってそれかい? しかも、予備のマシンもなくたった一台で? よくそれで実戦に参加しようと思ったね?」

「見かけは薄汚れた台車だがな、ポテンシャルは想像を絶するのさ……とくに、ナーブレセプトラッカーが操台すれば、僕もどれだけの能力を発揮してくれるのか想像もつかないよ」

「ナーブレセプトラッカーだぁ? そんな者がどこにいるというんだい? 笑わせんなよ……」

「ここにいるぞ……、ここにいる、この轟京一郎こそが、独善的で傲慢な礼宮院一族に引導を渡す男かもしれんぞ」

「轟京一郎? 聞いたことねぇなぁ……おい、おまえの戦績は?」

「は? 戦績――?」

「戦績だよ、戦績。どの種目に出場して、何勝しているんだよ? 公式戦だったら記録に残っているだろ? 自分の戦績も覚えていねぇのか?」

「いえ、戦績も何も……今日がはじめての実戦で………………」

「はぁ!? 今日がはじめてって……それ、マジで言ってんの!?」

「………………………………はい」

「はッ!? マジうける!! 大爆笑!! ネタにしても無謀すぎるぜ!! だッはっはっは!!」

「笑っていられるのも今のうちだけだぞ、礼宮院輌」

「いやぁ、笑った笑った……こんな素人と手を組むようじゃ、あの四輪久藤と恐れられた男も終わったな……まぁ、せいぜい頑張れや」

「……あぁ、全力で潰しにいくさ」

「出来るもんならやってみろや、そんなボロッちいマシンにオレ様のトキシック・パープルが負けるハズねぇ……どうせお前等はウチら礼宮院グループの養分だって事を嫌というほど思い知らせてやるよ」

「言わせておけば……あたしたちはそう簡単に礼宮院グループに屈したりなんかしません!!」

「なかなか言うじゃねえか、六車のお嬢ちゃん……負けた時の事を考えて言っているのかい? おまえに一族の誰をあてがうべきか、上層部で思案中なんだがな……身の振り方によっては、ド変態のキモいおっさんに一生を捧げるハメになるかもしれないぜ? こう見えてもオレは、そこそこ発言力があるからよ……な? わかるだろ? そうなりたくなかったら、オレに生意気な態度は取らない方がいいと思うぜ」

「……絶対に、絶対に屈したりなんかしません!!」

「あっそ? そりゃ御立派だね……ま、せいぜい足掻いてくれや」

 ニヤけた顔つきで卑俗な笑い方をする礼宮院のその男は、そう言い残してその場を立ち去ろうとした。それに続いて妹の礼宮院鈴音も立ち去るかと思いきや、彼女は黙って俺に近づき、そして耳元でボソボソとささやき始める。

「設計図の解析は終わったようですわね?」

「え!? どうしてその事を?」

「安心いたしました……わたくしの能力では、複雑な設計図を解析できなかったものですから、あなた方に一縷の望みを託したのです」

「――? どういうことなんですか? どうして俺たちに設計図を?」

「あなた方の可能性に賭けてみたくなったからです……信じてください、わたくしは決して嘘を申し上げたり致しません……罠など仕掛けるはずもありませんから………………」

「敵である俺たちに何故? 意味が解りませんよ……」

「残念ながら、今は説明している暇はありません…………ですがどうか、どうか、その情報をお役立てくださいまし――――」

 そういうと礼宮院会長はそそくさと兄の元へと小走りで去っていってしまった。

 去り際の彼女の表情はひどく儚げで、その澄んだ瞳からはとてもウソを言っているようには見えなかった。


「――京一郎さん、今、礼宮院会長と何を?」

「……ん、いや……なんでもない」

「――!? あたしたちはパートナーなんですよ!? 隠し事は禁止です!!」

「…………ただ嫌味を言われただけだよ、いつもの事さ」

「またあの人ったら……なにがなんでも、絶対に勝ちましょうね!!」

「あぁ………………」

 俺はつい、輪に嘘をついてしまった。正直に話しても問題はないだろうが、大事な試合を前にして余計な事を伝えると、精神的に悪い影響がでそうな気がして真実を伝えるのが躊躇われた。礼宮院会長のあの態度から察するに、俺たちを罠にはめてやろうというわかり易い間抜けな策略ではない事は確実だ。俺の感性が確信的にそう感じている。だとしたら何故、彼女は俺たちに設計図など渡したのだろう……俺たち勝って欲しいというのは、一体どういう事なのか……疑問は深まるばかりだった――。


「――――――開始時間も迫っているから、そろそろ君たちはダウンヒルのスタートラインに向かってくれ」

「了解しました。久藤さん、後半戦の下りは任せてください! あなたがトップで駆け上がってくるのを心待ちにしています!!」

 久藤さんは、語るまでもないというような自信に満ちあふれた表情で無言のまま小さくうなずき、そして、スタート地点へと向かっていった。その後を追う天ヶ崎さんの凛々しさも相まって、二人から放出される自信とオーラがまるで目に見えるようだった。そして、時は満ち、俺たちの人生を賭けた運命のレースが幕をあける――――――。

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